『朝日新聞』御厨貴さんのインタビュー

 「戦前は、政友会も民政党も自分の政党の内閣をつくるため、政党外にあった政党政治を否定する勢力、具体的には軍部と結びつき、結果的に自らの土台を全部壊して、衰退していった。いま、同じことをするのは愚かだ。政権交代できる枠組みをせっかく作ったのだから、その大枠は壊さないようにして、その中で政党の交代を軌道にのせるのがよい」
 ――現在、政党外の勢力といえば何でしょうか。
 「メディアだろう。メディアが『政権交代には意味がなかった』というキャンペーンを張ったら、国民はみんなそう思う。メディアは政権交代を否定したり、破壊したりする報道はせず、育てるようにしてもらいたい。とりわけテレビのスキャンダルジャーナリズムは問題だ」
――朝日新聞2010年9月16日12版15面オピニオンインタビュー「菅政権 生きる道」御厨貴(聞き手・吉田貴文)

 民主党代表選も終わったので、もう小沢叩きもないだろうと朝日新聞をよく読んでみたら、東京大学政治学者、御厨貴さんのインタビューが載っていました。面白かったのは上に引用した部分です。
 この部分は見出しにはなっていなかったのですが、さらっと本質的なことを指摘しています。「いま、同じことをするのは愚かだ。」という言葉は、戦前の軍部と同じことを現在のメディアが行なっているという危機認識があってこそ出る言葉です。TV・新聞の小沢叩きは本当にひどかったという印象を僕は持っています。結果的に菅を応援していたのが「メディア」の姿だったように思われます。
 この引用は、「――政権交代はまだ定着したとはいえません。」という吉田貴文氏の質問に対して、「日本では政権交代がルール化していないのだから、まだ時間が必要だ。」という趣旨の発言をした部分に続くものです。
 このインタビューには出てこないのですが、鳩山政権を崩壊に追いやったのは大新聞=TV局の「メディア」であったという意見は公平に見て正しいと僕は思います。小沢、鳩山に関する政治資金疑惑を検察のリークどおりに報道し、アメリカに逆らえば立ち行かなくなるという主張を軍事学的な根拠に逆らってまで論陣として張ったのは「メディア」でした。
 本来メディアが果たさなければならない役割とは、様々な視点から現実の政治現象を解説する役割だったはずです。それは同時に検察特捜が本当に法のもとに中立であるかを検証しなければならない立場です。
 民主党代表選に関しても同様の立場が要請されます。
 しかし、そうではなかった。だから、これらの事実をもって、御厨さんは戦前の軍部という政党政治外にある勢力を頼むことの危険性を現在のメディアに感じているのだと、僕は思いました。事実、小沢の次は菅だとばかりに、朝日新聞星浩は手のひらを返して、菅政権に注文をつけています。しかし、全体には、小沢を排除した「メディア」は、一安心といったふやけた雰囲気が漂っているように思えるます。
 政党政治とは、昨年の衆院選挙結果であり、今年の参院選挙結果です。その結果を捻じ曲げたのが「メディア」による世論誘導であった。結果として、参院選挙で否定された菅を再任させました。そしてその時、仙谷・菅一派が頼ったのが軍部=メディアであった。
 以上の僕の感想はともかく、メディア、特にスキャンダル報道は次々と敵を選び葬り去っていく。そののちに残るのは政治不信だけであるというのが御厨さんの指摘した意味なのでしょう。この政治不信は、結局、愚かな政治家を生き残させることになる。そして、日本政治の舵を取る人間はいなくなるということです。大切なのは人を育てる時間であるというのが御厨さんの主張でした。
 じつは、この話とは別に、昨日の日記を書いてから僕が思ったのは、メディアが一斉に小沢叩きをするような現在の状況は、結局、数を頼んで少数の正論を叩き潰す、リンチ、いじめみたいなものなのではないかという感想です。大人たちが自己の利益のためにこのようなことを行うことが許される社会とは、子供たちにとって、決していい見本にはならない。「だから大人は信用できない」ということになるのかもしれませんが、社会の悲惨な事件も、結局、こうした腐敗した大人に習う人々によって起こされるているような気がします。