福島、消費税、政治力学のマクロ分析

福島第一原発事故関係URL
武田邦彦(中部大学)ホームページ
http://takedanet.com/
実現させよう原発国民投票
http://kokumintohyo.com/
板橋区子どもを被曝から守る会
http://itabashi-kodomo.jimdo.com/
グリンピース
http://www.greenpeace.org/japan/ja/
都健康安全研究センター
都内の環境放射線測定結果 測定場所:東京都新宿区百人町
http://ftp.jaist.ac.jp/pub/emergency/monitoring.tokyo-eiken.go.jp/monitoring/
東京都ホームページ
http://www.metro.tokyo.jp/

 しばらくブログを書いていないうちに、国内情勢はますます混沌としてきたようです。ここでは緊急に提起しなければならない問題2点と、最近思うマクロな国際・国内情勢分析を書きたいと思います。

福島市から避難を始めるべきである
 福島県ホームページ(http://wwwcms.pref.fukushima.jp/)内にある「福島県放射能測定マップ」によると、2012年2月5日現在の福島市役所の放射線濃度は1.04マイクロシーベルト/時だそうです。これにもとづく年間被ばく量は24と365を乗ずれば得られます。
 つまり、1.04×24×365=9110.4となりますから、1ミリシーベルト=1000マイクロシーベルトで換算して、9ミリシーベルト強の数値となります。実際にはまだ一年たっていないから低く見るとこもできるけれど、これは昨日の数値なので、3.11直後の数値を入れれば既にもっと高くなっているとも言えます。非常に大雑把ですが、目安になる数字です。 友人の住むいわき市役所の数値は0.18マイクロシーベルト/時なので1.5ミリシーベルト/年、板橋区役所は0.10マイクロシーベルト/時だから、0.87ミリシーベルト/年となります。
 ここで確認しなければならないのは、チェルノブイリにおける強制避難地域は5ミリシーベルト/年以上であること、業務において被曝し白血病になって死亡した場合の限界線量も同様に5ミリシーベルト/年であることです。つまり、日本の放射線防御対策はロシア以下であり、福島市の市民はより細かくエリア分けしなければならないとしても、即時避難する必要があるという点です。ここで計算したのは(大雑把な)空間線量なので、実際には飲み水と食料品による内部被曝も計算する必要があります(大気中の放射性物質は空気として取り込まれるから、これ自体も内部被曝に区分することも可能だと思います)。 まず政府が避難を勧告し、そののちそこに残るか否かは本人が決めるべき筋の問題です。それゆえ、政府が危険性をあいまいにすることは、まさに犯罪に他なりません。そして、日本には放射性物質管理の法律があり、その基準は年間1ミリシーベルトなのだから、まずその法に照らした対応も求められるべきです。
 こうしたことは、上に掲げた武田邦彦さんのホームページを読んでいる人なら常識に類することなのですが、政府も大手新聞もTVラジオなどのマスコミも決して報道しないため、あえてここで警告したいと思います。
 もうひとつ、こうした汚染地域、東京とて決して低くないがゆえに、大気がより汚染されている地域の住民は、汚染度ゼロの食料を優先して手に入れる権利があるということです。汚染度ゼロの食品・水を入手できないのなら他に道はありませんが、現在の日本なら入手可能です。政府がこれに手を貸さないとしたら、これも同様に犯罪と呼ぶべきです。
 大学時代に公害問題をゼミで研究した立場から言えば、あの水俣病は数百万円の設備をそななえておけば未然に防げました。原発も作らなければ未然に防げました。しかし作ってしまったし、事故も起きてしまった。今我々にできるのは停止中の原発の再稼働阻止と、徹底的な除染と避難、安全な汚染ゼロの食料品確保しかないと思います。
 今日のブログの3点目の政治力学のマクロ分析にも関わりますが、野田内閣は福島市の人口の多さゆえに、避難にかかる経費を出し惜しんでいる。そして、マスコミも問題が大きすぎて思考停止に陥り、政府やメディアが最優先すべき国民の生命を無視していると考えられます。放射線障害は今年3月くらいから顕在化すると言われています。そして、政府は放射線障害を他の理由による疾患と区別しにくいという1点にかけて、切り捨てようとしているように思えます。これは4大公害病の時にも起きたことで、非常にありうるし、そう考えないと現在の政府の無策ぶりは説明がつきません。
 結論としては、政府が我々を守らない以上、自分たちで自分の身を守るしかないということにつきます。これは戦後日本最大の危機というべきなのだと思います。4大公害病の時代にも同じ問題はありました。しかし、この規模から見て、最大の危機と言うべきだと思います。
 また石油依存に対する反対から原子力発電やむなしという立場を取る一部論者(パックインジャーナルの田岡氏等)がいますが、それではこの原子力発電事故で失われた国土をこうした防衛論者はどう考えるのか聞きたいと思います。平和憲法下で守られてきた日本の国土は今、ほかならぬこうした原子力発電政策によって、大きく国土を失った。つまり立ち入ることすらできなくなっている点をどう考えるのかということです。
 現状で原発を再開したら、必ず同じ事故は起きます。何故なら安全基準が見直されていないからです。
 多分政府は、首都さえ守れればいいと思っているのでしょう。北海道も青森も東北も、九州や四国、関西も壊滅して人が住めなくなっても、東京さえ守れればいいと踏んでいるように思えます。大阪で国民投票を求める条例請求署名が早々と成立したのは、こうした事を大阪市民が気づいているからに他ならないと思います。

消費税問題を議論する前に

 日本の国会議員の報酬は、給料だけでも年収2000万円を越えている。アメリカ1300万円、イギリス700万円、ドイツ900万円、フランス800万円と比べても断トツである。
 役人の平均給料は806万円と、一般国民の平均給与412万円の2倍だ。定年後には天下りで優雅な老後も保障されている。
−『日刊ゲンダイ』2012年2月1日2面

 野田首相が力めば力むほど滑稽に見えてくる消費税アップの議論なのですが、彼やその閣僚がいくら財政危機を力説しても、まったく真剣に見えないのがその理由の一つだと思えます。それが上に引用した『日刊ゲンダイ』の記事です。つまり、財政危機がギリシャ並みの逼迫した国難だとしたら、まず国会議員と国家公務員の給与を半減することによってその逼迫度を示す必要があるということです。天下り年金一元化も同様です。
 国難なら、すべての国民・企業が等しくその義務を果たすべきでしょう。また、消費税の前に、所得税最高税率を現在の40パーセントから戦後の所得税における最大値1984年の70パーセントまで上げる必要があります。つまり、みんながその負担を負うのなら、誰もが納得するです。それをせずになんか消費税をあげればすべてうまくいくみたいなことを言っているから、だれも納得しない。マスコミ毒された低能能連中しか納得しないということになるのだと思います。
 野田首相は慶応大学で学生を前に演説して悦に入っていたようですが、むしろ、こうしたまともな議論すら質問できない学生の低能さに悦に入っていたのではないかと思います。だって、納税者より公務員の方が給料がいいとしたら、どうなってるの?って感じじゃないですか。官僚独裁、マックスウエーバー的に言えば「官憲国家」と呼ぶべき腐敗した状況だし、そうした政治が生み出すのは「無責任な政治指導と国民への圧政」(『ウエーバー支配の社会学』(有斐閣新書・1979)214頁)に他なりません。2009年の総選挙ではこうした状況に対する憤りが民主党政権を生み出したことを、たった2年で野田をいただく民主党議員は忘れ去ったというべきなのだと思います。
 マニュフェストの精神に戻れと主張する小沢グループを私が支持する理由はここにあります。

国内外のマクロな政治力学について 以上緊急の2点を踏まえて、国内外の情勢分析に戻りたいと思います。
 ブログを書いていなかったここ数カ月の間にもいろいろな事件がありました。
 証拠に基づかない裁判で小沢氏秘書の3人が断罪されたり、マニュフェストを裏切り、なおかつ国民よりアメリカ政府への政策表明を優先する野田内閣といい、自分自身民主党マニュフェストに反対で、なおかつそれをつぶすために躍起になっている野党第一党自由民主党が、その敵対する民主党の「マニュフェスト違反」を政権攻撃の唯一の追求手段とする奇怪さなど、ますます世紀末の様相を呈したこの半年でした。
 こうしたマクロな国際国内情勢を見る上で、週刊朝日緊急別冊『朝日ジャーナル 政治の未来図』(http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=13127)と雑誌『世界』2011年11月号(http://www.iwanami.co.jp/sekai/)特集「世界恐慌は回避できるか?」は非常に参考になりました。
 一言で言えば、国際通貨としてのドル機軸体制が揺らいでいるが、かといってそれに代わる強力な通貨や国家が現れていないという現実がある。基軸通貨に関してはドル6割、残り4割を円やユーロなどで占めるといた状況が、今後10年は続くだろうという予測が『世界』に記されていたことでした。特に特集内の、相沢幸悦、倉都康行、山口義行の3人による座談会「ほんとうの危機はどこにあるか?」では、「ギリシャの次はイタリア」とか言われているが、本当に経済実態について一番ギリシャに近いのはアメリカである点が指摘され、その意味で、今回のユーロ危機がアメリカの投機筋による利ざや稼ぎに過ぎないことが暗示される点が興味深く感じられました。ユーロは暴落しても、それよって大もうけしているドイツのような国もある。そんなわけで、ギリシャ財政破綻だけを見て大騒ぎするのは、こうした金融筋の筋書きで踊らされるに過ぎないように僕には思われました。
 かといって、では、ユーロやEUが磐石かといえばそうでもなくて、アメリカの金融によって攻撃にさらされるのはこれからも続くし、EUの銀行の経営が苦しくなれば、資金提供先の中国の経済成長にマイナス要因になるわけで、中国は内需があるから崩壊の決定打にはならないとしても、ある程度のマイナス影響は覚悟する必要がある。それが故に今後10年という停滞局面が予測されていました。
 結局、これを打ち破るのは中国を中心とするアジア経済圏次第となるのですが、そのとき中国の統治機構は、より西欧型にならざるをえないように思います。それは軍事独裁政権から民主化を成し遂げた韓国を思い浮かべればイメージしやすいように思います。
 ユーロ危機というトピックへの心配はこのように除外視できます。
 そうするとだいぶマクロトレンドが見やすくなります。
 この段階で週刊朝日緊急別冊『朝日ジャーナル』の進藤榮一論文「グローバル化地方自治−21世紀型地域主権への道」は非常に参考になりました。要は1991年の冷戦終了後一人勝ちのように見えたアメリカがバブルの継続による景気誘導に失敗し、ついにリーマンショックでにっちもさっちも行かなくなった状況を、現在の混迷は示しているということです。そして、そのような状況においても、たやすく主導権を渡さないのがパクス・アメリカーナアメリカを中心とした平和)の米国なわけで、戦争を含むあらゆる謀略手段を用いて主導権を維持しようとする。日本の国内での政治も、そうしたアメリカの道具となっているという現実が示されます。進藤氏は、思いやり予算大店法原子力政策をめぐる佐藤栄佐久福島県知事の失脚、小沢一郎民主党幹事長の失脚、TPPへの強引な引き込みなどを「アメリカ帝国の影」として、この論文で活写しています(同雑誌107頁)。
 こうした状況を受けて、本来より理性的に未来を読んだ行動が、国民に対して責任を有する政治家に要請されるのですが、GHQによる占領から冷戦時代を経た過去しか見えなくなった、そしてその利権構造にがんじがらめとなった現代日本の政治家は、旧態依然のごとくアメリカ全面追従しかなしえていません。
 ブレジンスキー米大統領補佐官の言う「進貢国」としての日本を抜け出すことによってしか、こうした危機を打開する方法はないように思えます。アメリカが1パーセントのために99パーセントが犠牲になる国を目指す以上、そしてそうした体制を世界に広げることによってパクス・アメリカーナにこだわる以上、日本の民衆の利益のために別の道を探るしかないように思えます。
 その具体的な手段とは、原発の即時停止による新エネルギー技術の開発と廃炉技術の確立、中国の民主化へ向けた関与しながらの外交という「東方政策」(これは旧西ドイツの対ロ外交の言葉です。本当は日本から見たら西だから西方政策?というか、独立した対中外交の意です)、TPPではなく東アジア経済圏へのシフト、新しい国内産業の育成等が要請されます。藻谷浩介が『デフレの正体』で主張した福祉社会への移行も決定打となります。
 このように現在の闇は、アメリカの没落に起因しているのだから、日本は取るべき手段がある。そしてそれさえ誤らなければ、より明るい未来をつかむことができるものと信じます。