原子力マフィアを根絶するには何が必要か

福島第一原発事故関係URL
武田邦彦(中部大学)ホームページ
http://takedanet.com/
都健康安全研究センター
都内の環境放射線測定結果 測定場所:東京都新宿区百人町
http://ftp.jaist.ac.jp/pub/emergency/monitoring.tokyo-eiken.go.jp/monitoring/
東京都ホームページ
http://www.metro.tokyo.jp/

 8月19日金曜日、夜9:00〜9:55に見たCSアサヒニュースター局の「宮崎哲弥のトーキング・ヘッズ」、「国家と情報Part2」ゲスト:上杉隆(ジャーナリスト)、司会:宮崎哲弥(評論家)、「原発報道は正しく伝えられているのか。記者クラブ制度を批判し、メディアの姿勢を問い続ける上杉隆氏に聞く!」は、非常に衝撃的な内容でした(http://asahi-newstar.com/web/38_talking/?cat=18)。
 このブログでは、これまで政官財学報の鉄のペンタゴンと称して、原子力村(原子力発電という仕組みによって不当な利益を得ている集団)を批判してきました。上杉氏はこの「トーキング・ヘッズ」の番組において、この原子力村を一歩進めて、「原子力マフィア」と呼びました。
 日本経済を「ヤクザ資本主義」と批判した外国人の記事を以前読んだことがあります。論者は様々な非公式のルールや参入障壁を指して、こう読んでいるのかと推測し、そのときはそこまでひどくはないのではと思っていました。しかし、後に、フィクションではありますが黒澤明監督の映画『悪い奴ほどよく眠る』を見て、いわゆるヤクザ資本主義とは意外と根が深いものなのではないかと思った記憶があります。
 こうした本来あってはならない政治経済の表の分野における「ヤクザ=マフィア」状態を如実に示すのが、今年3月11日の福島第一原発事故以降のマスコミ、特に記者クラブ所属記者の信じられない実態でした。上杉氏は同番組の中で、原発事故関連の記者会見において、まともな質問をするフリージャーナリストに対して、あろうことか、聴くに堪えない罵詈雑言のヤジを飛ばす記者クラブ所属記者のことを報告しています。そのうえ、事故の深刻さを隠蔽しようとする政府の情報不開示に対して、他国の報道機関は日本人のフリージャーナリストと共同して情報の開示を求めたのに対し、記者クラブ記者は、まったくそれを求めず、ただただ政府や東電の広報部として公式発表を論評抜きで流すことしかしなかったことを報告しています。これは文字どおり組織的犯罪行為です。
 上杉氏は自身のホームページで、このような状況で自分が報道を続けることは、こうしたとても先進国とは呼べない報道体制に、消極的にであれ加担することになるため、ジャーナリストを廃業すると宣言しています(http://uesugitakashi.com/)。そうした宣言があるだため、上杉氏の今回の発言は、われわれにとってより悲劇的に響きます。
 5ミリシーベルト以上の汚染地域から住民を強制的に避難させたロシア政府に対して、日本政府は、その避難費用を心配するあまり、住民を危険な地域に放置している。人の命より財政規律が大切という、戦時中の玉砕思想と何も変わらない政策を取っています。しかし、それ以上に、そうした政府の姿勢を批判しないマスコミ=記者クラブの姿勢を見ると、これこそ文字通り「ヤクザ=原子力マフィア」という名称にふさわしい所業だということがわかります。
 では、日本のネットには、そうした原子力マフィアを破るだけの力があるか、と上杉氏は問います。それに対する上杉氏の答えは「No」でした。
 日本のネットは中国よりも遅れている。なぜなら、中国のネットは、少なくとも、土に埋められた事故車両を翌日、掘り起こさせるだけの力をもっていた。しかし、日本政府は、ネットがこれだけ批判しているにもかかわらず、事故当時の放射線汚染濃度といった基礎的情報すら、いまだ完全には開示していない。つまり、日本のネットの力は中国にすら劣るという見解を上杉氏は述べていました。
 政府の避難政策などはロシアより遅れ、ネットの政府批判力は中国より遅れている。そんな日本が先進国並みの他国に対する責任ある外交姿勢を取れないのは、ある意味当然と言えます。先進国並みの報道、つまり政府に情報の開示を求めるという当たり前の行動が取れないのだから、そんな自浄能力のない国の政府を信頼する先進国はありません。
 上杉氏はこのことを指摘したうえで、今後予想されるのは、日本政府の他国政府に対する信頼の失墜であり、海洋汚染に対して、第一次世界大戦後のドイツが科されたのと同じくらいの天文学的賠償金が請求される事態であり、その支払い負担を強いられるがための日本の将来の三流国への転落であると語ります。これは至極、論理的な予測と結末です。
 こうした状況を第三者的に見れば、原子力マフィアという利益共同体は、国内における少数者である自己の利益を守るために不条理なことを行い、日本国民はかろうじてだませるが、他国政府をだますことはできない、という事実がわかります。つまり、こんな子供だましことが続くはずはないのです。しかし、当事者はそれを自覚していない。自覚しても止められないというというべきか、欲に曇った目には、同じ事実でも、都合のよい側面しか見えないのかもしれません。
 そして、これは、日中戦争・太平洋戦争を始めたときの軍部と政府の姿勢をデジャブさせるものです。こうした行為は出発点においてすら不合理なのですから、それが継続される過程においてその不合理さが目立ったとしても、途中でやめることはできない。むしろ当事者は一日でも崩壊を先延ばししようと自己の利益を守ることに汲々とするものです。そしてそののちに来るのは、第二次世界大戦における日本敗戦といったような決定的な崩壊です。そこまで誰も止めることはできなかったし、同じことが将来も繰り返されるというわけです。
 日本人は変わらないといえば、そのとおりなのですが、それではあまりに国民の受ける被害が多すぎるので、こうした「原子力マフィア」を根絶するために何が必要かを考えてみました。
 その答えは、真実の提示に尽きるように思えます。
 放射能は目に見えない。そして低レベルであれば急性症状は出ないため、その危険性を隠蔽しやすい。だとしたら、白血病の労災認定に必要な放射線被曝が5ミリシーベルト/年であること、現在の政府の食品に関する暫定規制値の上限の食品を摂取したら、それだけで年間被曝は17-22ミリシーベルトになることを明確に伝えること。そして、そのうえで、必要な暫定規制値の切り下げ、環境規制値の切り下げを政府に求めることが何より大切であることを報道することが大切なのだと思います。
 年間被曝量を、安全とされる1ミリシーべルトにするためには、子供の触れる土・砂場の放射線濃度を0.15マイクロシーベルト/時以下にする必要があります。食品の暫定規制値は現在の10分の1以下にすべきだし、放射性物質に汚染されていない食品を食べる権利を確保する為に全食品の放射線濃度の提示が必要となります。
 これをしないでただ「政府の基準値以下だから安全です」と言っても、それは何も言っていないに等しい。むしろウソをついてだましているに等しいわけです。そして、それよりもっと悲惨なのは、こうしたおためごかしがもたらすのは、実際の危険があるのだから風評被害とは呼べず、むしろ怪しい地域の食品を食べないという消費者の当然の行動です。
 TVの報道番組のインタビューで厚生労働省の職員は、食品を全品検査するだけの体制も機材も無いため、放射能汚染食品、特に政府の暫定基準値以上の汚染食品が流通している可能性があると答えていました。安全を求める消費者の行動は、汚染されていない地域の食品を求めるものとなるのは当然です。
 あれだけの事故を起こしたし、賠償金額が天文学的なものになるのだから当然東電は倒産だと誰もが思っていました。しかし、8月3日、政府の東電救済法案が通って、何と国民負担で東電の事故を補うことになった(http://getnews.jp/archives/133359)。そのため、従来の広告・宣伝・研究費の利益に関わらない電気料金上乗せがそのままこれからも東電に認められ、原子力マフィアの5角形のうちの2つ、学会と報道を東電が従来通り支配することが可能となった。
 記者クラブ記者の動きとは、こうしたものを背景にした非常にわかりやすいものでした。人としての良心の咎めに耐えられるか否かは別としてですが。すでに、記者クラブ所属記者のみならず、大手新聞社記者は自分たちを報道とは呼ばないと言います。何と呼ぶかといえば、会社員と呼ぶんだそうです。そう、報道といえば不可能な行動も、社員=社畜(これは家畜のような社員という意味で、人間じゃないから何でもできるんですよね)なら可能になるというべきなのかもしれません。
 単に品性が下劣であれば、それを非難するだけでいいのですが、それによって金が動く、しかも、ほぼ詐欺的な仕組みによって、真実を知らない人々がその金を支払わされるとしたら、それはまさしく犯罪です。
 そこで、こうした原子力マフィアを根絶する為の唯一の手段は、事実をもって語らしめるということになるのだと思います。
 福島第一原発事故を「第二の敗戦」と呼んだ人がいます。でも、本当の敗戦はまだ来ていないのではと思います。なぜなら、戦争を担った人々はまだ負けたと思っていないからです。そして、彼らを解体するGHQは、まだ日本に上陸していない。
 現在の反原発派と原発推進派の戦いを内戦状態と言った人もいます。しかし、反原発派の国民も、まだ内戦に勝利していない。
 ですから、本当の敗戦は、これから来ると考えるべきなのだと思います。それがGHQの上陸であれば、日本に住む人々は多大な犠牲を払ったうえで、またゼロから始めなければならない。そして、腐ったマスコミが生き返る可能性も残るのだと思います。もしそれが内戦の勝利なら、日本に住む人々は、まだ将来への希望を保ったまま、むしろ、新たな自信を持って将来に挑むことができるのだと思います。
 蛇足ですが、報道をめぐるこのようなファシズム状態は、福島第一原発事故関連以外にも、もう一つあります。それは、自公政権末期から現在まで続く小沢派排除のマスコミ姿勢です。
 検察批判はしても、小沢やその秘書を取り調べた検察は全く批判しない。国会の原則が多数決なのは明白なのに、小沢派流の数の理論はけしからんと言い、菅が選挙で負けて参院での過半数を失えば指導力の低下と批判する。こうした、支離滅裂な報道を繰り返したのがマスコミでした。だから、前原といった最低の政治センスしかない人を最有力候補と言ってもてはやしたり、立候補者の小沢詣批判をしたりといった迷走報道が続くのだと思います。
 ま、マスコミのめざすものは読者に利益をもたらす真実の提供ではなく、自公時代の総務省とベッタリ癒着した既得権益保護なのですから、これは当然の姿勢と言えます。
 それを突き崩すネットの力は、TV新聞社によってリリースされるヘッド・ラインではなく、独立系の動画・ニュース配信サイトの報道しかない。まだ量的に力は弱いけど、質的に凌駕することで事態を変えることが可能だと思います。TVや新聞の視聴者・読者も変わりつつある点に、これからの日本の希望があるように思います。