民主党をめぐる政局

政局の動き
 先週のCS朝日ニュースターの番組『愛川欣也パックイン・ジャーナル』で出た話題は「菅・仙石の民主党現執行部は小沢排除後の公明党との連携の密約が完成したため、小沢排除に踏み切った」というものでした。そして、今週出た『日刊ゲンダイ』は「小沢氏は鳩山・輿石氏との協議で、民主党両院議員総会の開催に必要な100人の民主党員の署名を集めるめどが付いたため、現執行部が小沢排除を強行するなら、両院議員総会で、国会議員補選と地方選挙で負け続けている現執行部の責任を追求し、現執行部を引きずりおろす計画が完成している」というものでした。この『日刊ゲンダイ』の見立ては、今週の『パックイン・ジャーナル』も言及していました。
 で、菅vs小沢のどちらが正しいのかといえば、私には、どう見ても小沢氏の方が正しいとしか思えません。
 自らの失政によって招いた選挙の敗北を、小沢氏を悪に仕立てることによって隠ぺいしてきたのが菅・仙石の現民主党執行部だったと、私は思うからです。
 振り返ってみれば、そうした手段によって自らの参院選での敗北責任を逃れたのが菅首相でした。その後も、9月の民主党代表選において、小沢を勝たせたくないマスコミの全面バックアップと有権者への洗脳・世論誘導によって回復した菅支持率は、現在、じょじょに支持率の低下として、化けの皮がはがされつつあります。でもそれは、考えてみれば自然な成り行きなのです。なぜなら、菅は有権者との約束である2009マニュフェストをことごとく裏切り続けてきたのですから。
 こうした菅内閣のもとでの選挙敗北の理由を、いわゆる小沢氏や鳩山氏の「政治と金」の問題にすり替えるのは、官僚とつるんだマスコミによる、官僚・マスコミ両者の既得権益確保のための理由とはなっても、決して、本当の敗北理由とはなりません。なぜなら、それは、有権者が一番よく知っているからです。
 こうした選挙で民主党候補者に投票しなかったのは、地方紙のアンケート結果にも表れているように、経済不況に対する菅政権の無策が一番の理由であり、政治と金の問題は、ほとんど投票行動に影響していなかったからです(過去の日記を参照)。
 そして、菅政権が官僚やアメリカとつるんでいることは、新聞社とTV局の株式持ち合いの禁止やTV局の携帯電話会社に比べて不当に安い問題を解決するための電波帯域のオークション制といった、マスコミ規制政策を口にした原口総務大臣を、菅が解任したこと、官僚との対決を打ち出した長妻厚生労働大臣を解任したことなどによって明らかです。また、5年後までの米軍基地への思いやり予算の維持・増額や普天間基地辺野古への移転をかたくなに守ってアメリカへの忠誠心をあらわにしたことからも、明らかとなる事実だと思います。

藻谷さんの定言
 藻谷浩介さんはその著書『デフレの正体』で、一億円以上の(土地を除く)金融資産をもつ人々が世界に950万人おり、そのうちの150万人が日本人であることを示しています。これは日本の85人に1人の割合です。その総額は、1400兆円の日本の個人金融資産のうち、400兆円にのぼり、残り1000兆円はそれ以下の中の上の人々が保持していると語られます。問題は、こうした金融資産が高齢富裕層のものであり、消費を担う生産年齢層(15-64歳)のものではない、という点にあります。
 ですから、民主党が2009マニュフェストに掲げた子ども手当は、至極正当な政策となります。予算を生産年齢層に直接移すからで、そのため消費の拡大に直結する政策だったからです。
 藻谷さんは消費性向の高い若者層(20-45歳)の所得を1.4倍化すれば、減少する生産年齢人口を補う消費需要を生み出し、デフレ不況を阻止できると計算します。これは2040年の生産年齢人口が2005年に比べて3割減であるという予測から出された倍数です。つまり、若者層の人口減少に合わせて、彼らの所得を増やしていくという政策です。
 資料として、この本にまとめられた数字を書いておくと、
     生産年齢層(15-64歳) 高齢層(75歳以上) 
 1940年 4295万人         85万人
 1950年 4966万人         106万人
 1960年 6000万人         163万人
 1970年 7157万人         221万人
 1985年 8251万人         471万人
 1995年 8716万人         717万人
 2005年 8442万人        1164万人
(以下は予測)
 2015年 7581万人        1645万人
 2025年 7096万人        2167万人
 2050年 4930万人        2373万人
となります(出典:2005年までは「国勢調査」、それ以降は「国立社会保障・人口問題研究所中位推計」)。
 藻谷さんはこの若者層の所得1.4倍化を実現するために、私企業に対して団塊層の退職で浮いた給与分を若者層に給与か福利厚生費として支払うことを提言しています。
 また、高齢富裕層が物を買うときの理由づけ(言い訳)になるような、インセンティブを加えた商品の生産を提言します。
 また、藻谷さんによると、相続の平均年齢は67歳であり、高齢富裕層に死蔵された資産は若者層に渡らないということを強調します。そのため、政府に対しては、譲与税を減らし相続税と上げる政策をとることを要求します。
 その他、団塊ジュニア世代が消費性向の高い45歳という年齢を超えることを見越して、それを補うために、女性層や主婦層の経営と社会進出への誘導を提言します。
 そのほか、移民外国人労働者の導入ではない観光・短期滞在外国人の誘致、生活保護の充実とその不正受給への罰則強化、生産年齢層の生活保護受給者に対する職業訓練、年金から生年別共済への移行、ナショナルミニマムとしてのレベルの高い公的医療サービスと富裕層向けの民間医療サービスの併存などを、藻谷さんは主張します。
 こうした民間企業と政府といった両者の努力によって、現在のデフレスパイラルからの脱却を目指すことを、藻谷さんは提言します。

藻谷提言への批判
 民間企業と政府の両者の努力によってデフレ不況からの脱却という目的を実現する、こうした藻谷提言ですが、団塊の退職分の給与を45歳以下の従業員に支払うことを私企業の自主努力によって実現するという部分は、実現不可能のように思えます。なぜなら、生産年齢層の減少以上に進む失業者数の増加によって、企業は常に安価な労働力を供給される。そして、たとえ藻谷提言が正当なものであっても、労働者を低賃金で雇用するという誘惑に企業は勝てないと私は思うからです。
 この点を除けば、藻谷さんの提言は、すべて実現可能だし、有効なもののように思えます。
 ですので、上に書いた藻谷提言の問題点は、財政事情によって不可能な税控除などによる政策誘導ではなく、違反企業に罰則を科す政策誘導が用いられるべきであると考えます。つまり、安価な若年労働力(45歳以下)を利用する企業は、その内部留保に応じて、制裁的課税を行うこと法制化すればいいのです。そうすれば内部留保の高い企業は制裁課税を避けるため、結果として、優秀な労働力が確保できるし、1.4倍化に向けた政策目標も実現できて、結果的に消費の向上が実現できます。それは国内需要の増加につながり、生産過剰が解消されるにつれて政府税収の増加につながるはずです。内部留保の少ない企業にとっても、消費の増大は、経営向上のきっかけとなります。そして内需が拡大すれば、企業の海外移転も阻止できて、結果的に失業者の吸収も可能となります。

藻谷分析を踏まえた民主党政局に対する結論
 ともかく、こうした大胆な政策をとれるのは、自らの無能によって、近視眼的なアメリカと官僚への依存を強める菅政権でもなければ、政策ビジョンを持たず過去を反省しない自民党でもない。そして、いまだ小泉・竹中路線のみんなの党でもなければ、過去の自公連立政権時代に有効な政策を打ち出せなかった公明党でもないことは明らかです。
 だとしたら、少なくとも藻谷提言と類似する民主党2009年マニュフェストへ戻れと主張する小沢派だけしか残らないというのが私の結論です。
 そして、小沢派にこうした政策を実現する力を与えるために、現在の菅から小沢氏への民主党代表・首相という職責の交代が必要であると考えます。