{時事}衝突ビデオを公開した海保職員を逮捕するのは判例違反

「任期満了まで菅首相に任せていたら、領土も主権も食料も産業も消えてなくなっていると思いますよ。今の日本は菅首相を選ぶのか、日本の存続を選ぶのか、という分岐点にある。……」小林弥六・筑波大名誉教授(経済学)
日刊ゲンダイ』2010年11月11日付1面

 引用した言葉は、国会で身内議員に質問された菅首相の「(3年後の衆院選挙まで)石にかじりついてもがんばりたい」という答弁の感想として、小林さんが答えたものです。
 かたや同じ『日刊ゲンダイ』2面では「いよいよ表に出てきた仙石長官『超危険思想』として、例の盗撮事件に関する「アンシャンレジーム自民以上のファッショ気質」、つまり答弁資料を写された仙谷官房長官の言動を伝えています。この資料の内容は「厳秘」って書いてあったらしいんですが「厳秘」ってなんでしょうか? いまネット辞書で見たら、「げんぴ」と読んで、極秘と同じと書いてありました。
 ともかくその内容は、衝突ビデオを一般公開するか否かの検討資料ということなのですが、実際には、そのデメリットばかり書きたてているものだったそうです。それを仙谷は菅首相に渡そうとした。そうしたお粗末な資料を写されて、逆切れした仙谷が「機密保全法制のあり方と厳罰強化を検討したい」と言い出したことに関しての記事です。
 衝突ビデオの流出にしても今回の写真にしても、自分達のやっていることがそもそもお粗末なのに、それに対して国民の正当な知る権利を禁じるような発言をするのが、まさに「アンシャンレジーム以上」の体質と言われるゆえんです。
 小泉の時は、小泉本人が「自分の政治判断で船長を起訴せず強制送還した」と記者会見しました。しかし仙谷は、そうした政治責任を海保と検察になすりつけ自分の保身だけを図ろうとした。これが海外に出かけていた菅の頭越しに行われた仙谷の指示でした。そして今も、そうした政治責任を逃れるため、国民の知る権利を制限しようとしています。なんという体たらくでしょうか。そしてこれは、同時に、2009マニュフェストと、ま逆な方向を向いた発言です。今日の国会予算委員会中継でも、このように自民党議員に追及されていました。
 この自民党議員の追及といえば、同時に、本当にアホとしか言いようのない詰めの甘さでした。
 外交関係という政治判断で起訴を取り下げた検察の記者会見に関して、自民党議員は「あれは明らかに政治判断であって検察の行いえないものであり、将来に禍根を残す」と言っていましたが、法務大臣は「法にもとづいて行った」と応えていました。
 検察が起訴するかしないかの判断をすることは刑事訴訟法上可能です。しかし、それは明らかに法的平等の観点から、その起訴内容に関してなされる判断です。その中には、決して外交上の配慮はありません。ですから、自民党議員は「政府説明は、法にもとづいていない。つまり法治国家の体をなさない」と追及しなければならないはずでした。審議ストップをしてでも追及しなければならない大臣答弁です。これを見ても、自民党はバカ丸出しだし、応えている大臣もバカ丸出しだと思いました。
 さて、表題のビデオ流出を行った海保職員の自首なのですが、『朝日新聞』2010年11月10日夕刊4版13面に、かつて政府の情報公開法を中心になって作成した堀部政男・一橋大学名誉教授の解説が掲載されています。
 「今回の映像流出は国家公務員法守秘義務違反には当たらず、捜査は疑問だ」という内容です。なぜそういえるのかというと、守秘義務違反に関する最高裁1977年判例は、「(1)一般人が知らない(2)秘密として保護すべき点がある−−という二つの条件を満たす情報を漏らした場合のみ、違反の対象になる」というものであったからです。
 今回の衝突事故に関しては、海保が直後の会見で詳細に状況を国民に説明している。国会議員もビデオを見て、その内容を国民に説明している。これらの状況から捜査は違法となるわけです。
 ネットでは「中国になめられるな」といった小学生レベルの議論が続いていますが、そうした雑音に押されて、法の守り手であるべき検察、警察、裁判所が、判例にもとづかない捜査・逮捕行動を取るとしたら、それこそ国民の失う損失は計りしれないものとなります。そして、事実そうなろうとしている。ネット右翼の叫ぶ「損失」以上の損失が、いま起きようとしているのです。
 もっとも、ネット右翼にしてもビデオ流出に関しては、「それを行った職員を罰するな」という主張です。ですから、ここで問題となるのは、すべてを海保・検察の責任に押し付けようとする「仙石内閣」の悪辣なファシズム体質です。
 下らないマスコミの声によって、裁判所は、これまでも少なからぬ不当な判決を下してきました。検察審査会に関しては、小沢事件も同様です。そして、今回もそうなるとしたら、完全にマスコミのミスリードであり、日本という国を、そして日本の民主主義をまさに葬る行為となるのだと思います。
 TPP参加の前にも、自給率や日本の農林漁業の将来を左右する既存農林漁業への生活保障と農業政策が示されなければなりませんでした。しかし、それをまったく行わず、参加だけが先行したからこそ菅内閣は批判されているのです。
 それすらわからないボンクラ揃いの「仙石内閣」は、いくら国会答弁で弁護士張りの、のらりくらりとした態度を続けても、弁護士という職業の名前を汚すだけの存在でしかありません。仙谷の発言自体が「政府情報の徹底した公開」という2009年マニュフェストを裏切ってるからです。国会の様子は、一事が万事この調子です。
 まさに、菅が退陣しない限り必ず日本は滅亡する、というのが今の日本の状況であると思います。
 菅では国政を支えられないことが今後一層の支持率低下によって明白になっとき、民主党は党員、国会議員支持で第2位の小沢一郎に政権を引き渡すべきです。事実、いま民主党代表選をすれば、必ず小沢が勝つでしょう。
 ただ同時に、いま、再び代表選をすれば、再びマスコミのデマゴーグによって菅支持率が急に浮上し、小沢排除の動きが出るかもしれません。しかし、そうした動きこそマスコミの誘導がデマゴーグであった証拠でもあります。マスコミも仙谷さながら、実質的に自己保身のために小沢排除をしているからです。
 政策ではなく、「ころころ変えるのはダメ」とか、内容のない「政治と金」のマスコミキャンペーン(この内容のなさは、これまでさんざん書いてきたことなので繰り返しません)によって小沢一郎は葬られた。そして、その選挙結果によって一番損失を被ったのが民主党代表選後の日本に住む住民でした。それに有権者が気づかない限り、日本の崩壊は止まらないと思います。
 っていうか、もう大部分の日本の市民は気づいていると思います。