小沢検審議決は憲法31条違反

 今日発売の『日刊ゲンダイ』2010年10月16日3面には、「検察審議決は憲法違反濃厚の重大事−小沢きょう提訴 裁判所が門前払いしたらこの国はオシマイ」という記事が掲載されました。小見出しには「『もう一度やり直し』も大あり」とあります。
 今国会では、補正予算案を自民党公明党と協議するため提出が月末となって、何の法案も提出されないまま、だらけ切った無駄な議論が続けられています。このように補正予算を通すために、自民、公明に協議を呼びかけるということは、つまり補正予算案は自公の意見が基本となるということで、事実上の大連合を意味します。当分選挙がないこともあって、このままでは来年度予算も自公案が通ると考えるのが自然です。
 そんな国会で自民党がはりきっているのが小沢さんと鳩山さんの「政治と金の問題」です。その質問を受ける民主党首脳である菅=仙谷も、自分たちが追い落とした先任の2人であるため、余裕で受け流すことを続けています。追及する自民、公明党議員にしても「政府(=自公、当時)議員が逮捕されることはない」というお墨付きを官僚からもらっているのですから、とんだ茶番です。まるでお笑いです。
 その話はともかく、この「政治と金」問題の具体的な内容を知っている人はどれだけいるのでしょうか? 実はその内容たるや、自公議員がはりきっていろいろ言っている割に、そして大新聞が報道している割に、実態は小沢氏の政治資金の記載が1年ずれたということだけです。これまでだったら記載を訂正して済ませるだけのこうした問題で、小沢氏の秘書であった石川議員は立件され裁判に持ち込まれました。そして、小沢氏に関しては、それを秘書に指示する理由もないし証拠もないということで、立件すらされなかった問題です。
 自民党議員は鳩山さんにも「政治と金」の問題があると息巻いていますが、これも立件されなかった問題で、特に賄賂性はゼロの問題です。そんなつまらない議論で国会論戦が空転しているのが現状です。
 そんななか行政訴訟に関する定番教科書を書いている学習院大法学部教授の桜井敬子さんが『日刊ゲンダイ』のインタビューに答えたのが冒頭の記事です。まず、桜井さんは「検察審議決に対する行政訴訟は可能」としたうえで、「今回の議決は『憲法違反に当たるのではないか』」と踏み込んだ発言をしています。
 「憲法31条は『刑罰を科すには適正手続きによる』と規定し、検察官が起訴する場合もきちんとした理由を示している。ところが、検察審には判断基準がなく、多数決で起訴を決める『完全自由裁量』のようです。今回のような(犯罪事実が勝手に加わった)理由なき起訴が許されれば憲法違反と言わざるを得ません」(桜井さん発言の引用)。
 この「適正手続き」とは、憲法にはさらっと書いてあるのですが、非常に重要な規定で、正当に収集された証拠がなければ何人も起訴されないという意味です。こうした手続き的公正は、憲法と法理論の大原則です。刑事訴訟において不正収集証拠が有効な証拠とみなされないのもそうした憲法原則によるものです。
 こうした議論を受けて、名城大教授で弁護士の郷原信郎さんの発言も記事になっています。「裁判所も、今回の議決があまりにヒドイ内容と分かれば、検察審に対して再検討を促すかもしれません。勝手に付け加えられた犯罪事実で強制起訴するのはメチャクチャだからです。検察審自体が職権で、議決をやり直す可能性もあります」(郷原さん発言の引用)
 『日刊ゲンダイ』の記事はこうした議論を紹介しながら小沢氏の無効提訴は当然であり、もしそれを裁判所が門前払いしたら、日本にまともな裁判所は存在しない証拠となるとまとめています。
 新聞の片方で前田検事事件を大騒ぎで取り上げながら、小沢氏秘書の調書を同じ前田検事がとっているにもかかわらず、その点はまったく無視して「市民目線」などとおだてあげる朝日新聞はどういう頭脳構造になっているのかまったく疑問です。また、そうした趣旨の投稿をする立花隆にしても、年を取って完全にボケたと言わざるおえません。民主党(仙谷あたり)からも官房機密費もらってるんじゃないかとも疑われます。
 いま危機にあるのは、日本の民主主義だけでなく、日本の法治主義でもあります。サンケイが右で朝日が左というのは、今でも変わらない日本の新聞の立場であると思います。しかし、小沢問題については、相も変わらずTVも大新聞も一斉に真実を隠す報道を行っています。このことを欧州の友人に話すと「亡命すべきだ」とアドバイスされるくらいです。それくらい常軌を逸しているという意味です。小沢問題を取り上げるだけでも、この国には正義も法もないことが証明されるのですから。
 取調の可視化と弁護士の隣席が認められない国には平等の地位協定も認められないとういのが、米軍基地問題に関する米政府の方針です。小沢問題で大マスコミに国民が騙されている間に、日本人が被っている不利益は莫大なものになるっていると言える理由がここにあります。
 私としては、小沢さんの検察審議決無効という提訴に対して、裁判所が法に基づいた冷静な判断をすることを求めたいと思います。裁判所が法を無視したら、それこそ自らの権力の源泉を否定する行為です。そして、それは戦前の裁判所が軍に屈服したように、現在の皇軍たるマスコミに裁判所が屈服することを意味すると思います。
 その先には「亡ぶね」という、夏目漱石三四郎』の広田先生の言葉しか残らないのだと思います。そして事実、日本は昭和初期に一度滅んだのですから。