鈴木宗男氏の上告棄却について

 社民党福島瑞穂党首の「次の国会では、いずれの民主党代表候補者が勝とうと、政治と金の問題と普天間の問題を追及する」という発言には、思わずのけぞってしまいました。
 普天間問題の見直しに言及しているのは小沢氏だけです。それにもかかわらず、マスコミの尻馬に乗るかたちで、「政治と金」の問題を持ち出すとは、どういう神経をしているのでしょうか? 自らの政策を実現する最も可能性のある候補者を、後ろから鉄砲で撃つに等しい行為といえます。共産党のように、むしろ他党の党首選のこととしてだんまりを決め込む方がよほど理性的な対応といえます。
 不起訴とされた小沢氏はもとより、起訴された小沢氏秘書の「政治と金」の問題にしても、記載すべき支出を1年ずらして記載しただけの内容です。これまでの慣例では記載を訂正してすませていた問題を、ことさら大問題として取り上げ、法解釈を変えて起訴したのが実態で、何ら違法性のないものと言わざるをえません。その過程はいずれ裁判で明らかになるでしょうが、それをいまでも言い続ける福島氏の行為は、良識が疑われる行為です。
 そんなわけで、福島社民党党首の今回の発言は、仙谷による恫喝によるものか、無所属になった辻元清美議員に対する腹いせかのどちらかではないかと推測します。
 いずれにせよ、党首として失格の判断であると思います。前回の衆院選挙で、私は比例区社民党に入れたのですが、何とも、入れなければよかったと悔やまれるような醜態です。
 このように、9月11日(土)指定郵便局必着とされる民主党サポーター票の獲得と、地方議員、国会議員の投票行動にプレッシャーをかける目的で、民主党菅派の政治家・官僚・マスコミは動きを強めているようです。
 しかし、最も驚かされたのは、鈴木宗男議員の上告棄却報道でした。ここまでするんだという感じです。
 もともと最高裁裁判官は憲法で保障された裁判所の独立=裁判官の独立原則にもかかわらず、その実、最高裁判所事務総局によってコントロールされているという研究結果があります。

司法官僚―裁判所の権力者たち (岩波新書)

司法官僚―裁判所の権力者たち (岩波新書)

 新藤宗幸『司法官僚―裁判所の権力者たち』(岩波新書・2009)によると、裁判所を代表するのは最高裁判所長官であり、その司法行政内容を決定するのは最高裁判官会議であると説明されてきました。

しかし、実際には、最高裁判官会議で審議される事項の案は、ことごとく事務総局においてつくられている。事務総局が作成した裁判官の任用・再任用の指名リスト案が、最高裁判官会議で修正をくわえられたり、拒否されたりしたことは、一度たりともないとされる。
 事務総長は、事務次官、局長、秘書課長をしたがえて最高裁判官会議に陪席する。原案の説明を部下である局長や秘書課長におこなわせるとともに、ときに重点事項をみずから説明する。制度的にいえば最高裁判官会議の補佐役の筆頭ということになるが、「影の最高裁長官」という言葉があるように、司法行政上の「最高権力者」といえよう」(同書77-78頁)。

その大半が同じ裁判官から選ばれる最高裁事務総局、そしてその代表である事務総長のコントロールのもとに、司法が動いている実態が説明されます。
 しかも、その司法行政の内容は密室で行われる。著者の新藤さんは、これを国民の下に取り返すには、裁判所情報公開法が必要であることを述べています。

その内容については繰り返さないが、裁判所のもっている情報の開示請求権が市民にあることを、また裁判所に開示の義務があることを法的に定めたことだ。裁判所情報公開法をもちいて最高裁事務局の人事決定や裁判所運営についての情報開示が請求されるならば、事務総局もそれを拒みつづけることはできない。その結果、司法官僚による集権的な裁判官・裁判所「支配」は、ゆらぐことになる。(同書239-240頁)

と主張します。
 鈴木宗男衆院議員の裁判は、すでに地裁・高裁の判決が出ており、最高裁が鈴木氏による上告を棄却すれば、すぐに最終判決が出る状態でした。そして、それは2008年2月26日に高裁が上告棄却を出してから、いままでずっと1年10か月にわたって最高裁で結論を出さないできた事案です。それが民主党代表選終盤のこの時期に出されるのには、何か通常の裁判手続き以上の意図を感じさせます。
 また、この9月10日に、検察の取り調べが不法なものであったと結論付けられるであろう郵政不正事件の判決が出るため、その前を狙ったという意見も『日刊ゲンダイ』2010年9月10日3面に出ていました。
 いずれにせよ、立法、行政からの独立を建前とする司法にあるまじき行動だと思います。結局のところ、この鈴木宗男氏の収監は、「おかみ(=官僚)に逆らうとこうなるぞ」という菅=仙谷一派からの恫喝でしかありえないように思えます。これは、敵は菅派政治家、国家官僚、マスコミだけでなく、司法官僚も敵であったということを示すものだと考えます。
 小沢氏は、首相就任後すぐに、裁判所情報公開法の制定も目指すべきです。そして、民主党サポーター、地方議員、国会議員は、こうした菅側の姑息な恫喝に惑わされず、勇気をもって小沢氏を支持べきだと考えます。