民主党代表選挙について


パックインジャーナル
 先週の土曜日、9月4日に放送されたCSアサヒニュースターの『パックインジャーナル』では、山田厚史(AERAシニアライター)が、「事ここに至れば、小沢氏の破壊力を官僚支配打破のために使う方がいい」として、小沢氏の支持を打ち出しました。
 僕は、最初、山田さんが登場した時、抽象的な理想論ばかりで何か的が外れているのではないか、と思っていました。しかし、先日の「結局、鳩山政権をつぶしたのはマスコミだった。それは自民党時代の古い(情報独占・既得権益)体質から抜け出していないからだ。時間はかかるが、マスコミも変わりつつある」と、鳩山辞任を総括していたことも思い返せば、山田さんは勇気をもって発言する人に変わった、と思うに至りました。
 山田さんは、同番組に最初に出演した時、朝日新聞シニアライターだったのです。それがAERAに変わって、より発言の自由を得たのかもしれません。
 この番組では、田岡俊次二木啓孝川村晃司あたりが、僕の好きなコメンテイターなのですが、いずれの出演者も取材の現場をもち、その現場で得た知識に基づいてニュースを解説する姿勢が、僕には、好感が持てます。異なる立場の人間を呼んで、結局お互いの主張をいいつのるだけで、最後に田原総一郎が強引にまとめるといった「朝まで生テレビ!」のような討論番組とは一線を画するものです。
 「朝まで生テレビ!」が無意味とは言わないのです。それはそれでいろいろな話題を取り上げることに意義があるのだと思います。でも、見ていて面白くないんですよね。言い合いばかりで議論が深まらない気がするからです。
 それをするのなら、複数の政治家を呼んで、参加した視聴者に質問させて議論したほうが、よっぽど面白い番組になると思います。そんな番組を、僕がイギリスに住んでいた1985-6年頃、見たことがあります。何しろ政治家は、有権者のために政治をしているのですから。
 こんなイギリスの番組のような番組すら作れないということが、日本のTVがいかに国民ではなく行政機関の方を向いているか、ということの証拠だと思います。民間企業の営業が、顧客ではなく、自分の会社の方だけを向いて話したら、そんな営業は顧客に見向きもされません。それでも成立するのが日本のマスコミということなのでしょう。NHKは我々が視聴料を払っている。そして民放にしても視聴者の支持なくしては存在しえないにもかかわらずです。そんなマスコミには、できるだけ早く変わってもらいたいと思います。


The Economist
 さて、今週の『The Economist』2010年9月4-10日号に、小沢氏に関する記事が出ていました。よく左派の読む雑誌ではないと言われることもあるのですが、英語の勉強用に読んでいる雑誌です。
 『The Economist』は、日本のマスコミと歩調を合わせるかたちで、菅支持を訴えていました。でも、その論拠は、過去の「破壊者」としての小沢一郎であり、彼らが論拠としている問題点は、小沢氏よりむしろ菅氏に当てはまるように、僕には思えました。密室政治にしても、政策の基本方針をもっていない点にしても、その民主主義が見せかけのものである点もです。菅に見られる基本方針とは、首相であり続けることだけで、何をしたいかが全く僕には見えません。それゆえに官僚にいいように操られているように思えます。こう考えると、自民党政治を踏襲しているのは、本当は菅=仙谷一派と見る方が、遥かに妥当するように僕には思えます。
 もともとこの雑誌は、ブッシュのイラク侵略戦争を支持した雑誌だし、日本に強力な政治的リーダーシップをもった政治家が現われたら、欧米企業家にとっては脅威だから、欧米企業家を主要な読者とする『The Economist』がこうした論陣を張るのは、自然なことにも思えます。


大阪の民主党街頭演説会
 それと『日刊ゲンダイ』で、菅氏に対しては「早く辞めろ」というヤジが鳴り響き、小沢氏に対しては万雷の拍手が鳴り響いたという東京・大阪の街頭演説会の記事を確かめるために、民主党ウエッブサイトに行ってみました。ここには、東京は記事だけですが、大阪の街頭演説会の全編が、動画でアップされています。大阪・梅田街宣(完全ノーカット全編)です。動画の長さは37分半で、菅氏、小沢氏の順で立候補者の主張が約15分ずつ録画されています。同じくアップされている、立候補記者会見、記者クラブによる討論会、同様、必見の動画です。
 で、結論から書くと、小沢氏に対する万雷の拍手は、嘘じゃありませんでした。菅に対してはパラパラとまばらな拍手があるだけでした。
 演説の内容も、厚生大臣時代の功績、自民党批判に続いて、雇用のために頑張ると言いながら、具体策といえば、1つの工場の海外移転を税金を積んで阻止した話と、海外に莫大な金を貸して日本の鉄道を作るみたいな話だけなのが菅氏でした。それに対して、小沢氏は、官僚主導を改めることによって地域で自由に使える補助金を出し、地元の企業でその補助金を使うことによって地域経済を活性化する話や、現在進行中の予算を、一律10%カットという、いい政策も悪い政策も一緒くたに扱うという菅の予算とは違って、民主党マニュフェストに沿って政治家が責任をもって変えていくことは、いまでも可能であるという話、景気対策についても、長期的には内需主導型経済に向けて動き、短期的にはもっと機動的に円高、株安対策に動くという話などを具体的に語って、小沢氏は観衆を引きつけていました。


小沢氏と菅氏の政策の違い
 こうした生情報を見ると、「政策でも菅氏優位」と伝えた、昨日の朝日新聞朝刊がいかに作為にみちた、小沢氏に対する悪意に満ちた、世論誘導であるかがわかります。
 高級国家官僚の既得権益を守るために、それに触れない政治家(自民党や菅一派)に対しては全く動かず、高級国家官僚の既得権益の廃止を約束した小沢だけを徹底的に追求する検察特捜、そして、検察を辞めながら検察の支援によって法廷弁護活動を有利に進めようとする弁護士に主導された検察審査会(ついでに言うと情報を提供するのも検察)、この二つを使って小沢を追い落とそうとする菅=仙谷一派を見ると、どちらが国民のためになるのかは明白です。高級国家官僚の既得権益擁護はおかしい、と、みんなが判断したからこそ、昨年の衆院議員選挙で民主党は勝利を収めました。いま、菅と小沢氏の演説を見ると、そうした政治姿勢の違いが明白になりつつあると僕には思えます。
 また、こうした両氏の発言を見る限り、菅の勝利の後に来るのは日本経済の衰退であり、小沢氏の勝利の後に来るのは、東京一極集中ではない全国の均衡のとれた経済発展であり、外需に依存しない内需型の安定した経済構造であることが予測できます。少なくともその方向で働こうとする小沢氏の立場は、菅氏と違って、見えるのです。
 ともかく、民主党マニュフェストという国民との約束を破った菅なのか、それともその原点に戻れと、具体的な政策をあげたうえで主張する小沢氏とを比較した時、民主党の代表、そして日本の総理大臣としてどちらがふさわしいかという結論は、小沢氏になると僕は思います。
 それともう一つ付け加えるなら、消費税を10%にすると唐突に言い出して、その具体的な使い道すら言えずに、楽勝で勝てるはずの参院選民主党敗北に導いたのが、菅=枝野民主党でした。これを回復するのは、小沢氏の指摘を待つまでもなく、選挙制度ゆえに、6年、9年、12年以上かかる計算になります。そうした大失敗をおおい隠すために、いま菅氏は「数が重要ではない」みたいな開き直った詭弁を弄し、自己の責任回避を狙い続けています。こんないい加減な理屈はないだろう、と、僕には思われます。反省は何もない。責任逃れしかないこうした姿勢は、歴代自民党総裁にすら見られない、恥ずべき姿です。
 「青い鳥を追い求め過ぎ」と言われてもいいのです。検察と官僚とマスコミの情報操作に踊らされて菅を支持するよりは、よっぽどいいと思います。なぜなら、この民主党代表選挙は、政治の主導権を官僚から国民へと取り返す、いまとなっては、近い将来の間における、唯一にして最後の機会だと思うからです。これまで読んでくれた方もそう思うなら、代表にふさわしいのは小沢氏だということは明白だと思います。


小沢氏の防衛政策と沖縄基地政策
 僕は、小沢氏のを支持しますが、防衛政策に関しては留保する立場です。これに関しては小沢氏はあまり語っていません。
 ただ、彼の持論である、米軍は、第七艦隊を除いて、後方にあって後ろから日本を援助すればいいという姿勢は、日本は自衛隊だけで守れるという自負に基づくことからくる姿勢だと思います。ここには「愛国」を語りながら、その実「対米従属」を志向する俗流右翼の発想とは、全く違う姿勢があります。そして、こうした理論背景から、小沢氏は米国隷属から対等な関係への変化を志向することになるのだと思います。
 「社会民主主義は防衛政策で妥協しない」というのが一般的に言えるセオリーですから、これは当然だと思います。しかし、守るのは自国民であって、他国に隷属することはないというのも社会民主主義国でも当然の原則です。その意味で、小沢氏の立場は、明確で筋が通ったものです。
 小沢氏が「腹案はない」といった普天間基地移転問題は、じつは、自分は、こうすれば打開できる道があると思います。まず、日米地位協定NATO諸国並みにする。そうして、基地の施設権・管理権を日本に取り戻す。そうすれば辺野古以外にもっと使い勝手のいい自衛隊基地がすでに佐世保(ここに海兵隊輸送艦隊が駐留している)周辺にあるのだから、辺野古に移転するよりも米軍にとっては都合のいい話になります。ましてや、沖縄の海兵隊移転時期は、2014年からずっと先に延ばされた。これは、鳩山辞任の後に米国が発表したものです。だからあわてて辺野古に基地を作る必要は、普天間のとりあえずの代替基地が見つかれば、不要なわけです。また、地位協定が変われば、米軍基地に対する嫌悪感も変化するはずです。
 むしろ、代替基地すら必要ないかもしれません。なぜなら問題になっている海兵隊は、海外のアメリカ人を救うための緊急部隊だからです。それは、中国や韓国に近ければ、日本でなければならない理由はありません。
 ともかく施設設置権と管理権を日本に取り戻す。すでにNATO諸国が実現しているこの権利を日本も持てばいい。ダメだというのなら、思いやり予算でもなんでも減らせばいいのです。フィリピン政府のように賃貸料をとると言ってもいい(フィリピン政府が言ったのは本当は、賃貸料を上げる!でした。すでに取っていたのです)。安保条約を廃止すると言ってもいい。そして、ここが重要ですが、それができるのは、防衛官僚・外務官僚の言うがままになっている菅=仙谷民主党ではなく、政治家が責任をもって政策の方向性を示すと言い続けている小沢民主党だけであると思います。
 ただ、昔小沢氏が言っていた、国連の要請であれば、自衛隊を戦闘部隊として派遣することは憲法に違反しないという考えは支持できません。このへんは小沢氏の今の考えを聞きたいところですが、小沢氏が「国民の生活が第一」を基本線とするなら、僕は、そんなに唐突なことはしないだろうと思っています。それは、昨年の参院選のときの僕の判断でもありました。


在日外国人への地方選挙権付与問題
 この点も、右翼なら大反対する点ですが、僕は税金を払って、しかも生まれた時から日本に住んでいる在日外国人が地方政治に参加することは、当然のことだと思います。反対する立場の人も、同じ反対するのなら、日本国籍の取得要件をもっと緩和するといった田中康夫並みの建設的な代案を出すべきだと思います。「侵略される〜!」みたいな、小学生みたいなことを言っても、在日外国人が受けている不利益と比較して、説得力は全くありません。
 以上述べたように、日本の未来は、今回の民主党代表選にかかっている。投票権のない自分もこうして関心を持つ所以です。そして、小沢氏を支持する立場になったわけです。


社民主敵論はとらない
 本当に最後に、関心のある人だけに向けて、書きます。
 第二次世界大戦前のドイツで、スターリンの指導もあって、ドイツ共産党はまず自分に近い社会民主党を攻撃しました。国内的には、ドイツ労働者の支持を独占するためです。その結果、共倒れとなり、ナチスの台頭を許し、ヒトラーの政権掌握を許してしまった。本当に遠い立場であれば、関心も持たないし、その主張を読むことすらないのです。だから、自分に近い人の些細な違いが気になったりします。
 たとえば、僕のような左翼が小沢氏を応援することは、むしろ小沢氏にとって害になるという主張もあります。でも、新左翼のスローガンに「個別に進んで一斉に撃つ」というものがあります。僕はこの言葉を、同じ理想社会に向けて進むのであれば、その路線は一様でなくてもいい、という意味で、理解しています。
 だから、反ファシズムであれば、統一戦線が組めると考えます。
 今ここで、小沢氏に対して冷淡な態度を取るのであれば(雑誌『世界』はその一例です)、次に来るのは旧来の高級国家官僚支配であり、検察・警察の政治警察としての行動であり、日本に住む人々の悲惨な未来です。そうした危機意識は、つまらない派閥意識を越えるものだと信じています。