総括・2010衆院選挙とその後の日本政治

 星に託した願いは届かず、選挙の結果は最悪で、消費税増税反対派の勢力は惨敗を喫した。国共社3党は改選前10議席から半減の5議席へ。増税賛成派の民自2党は改選前92議席から95議席に伸ばし、たち日と改革を合わせれば97議席を獲得。消費税増税に反対の民意は、消費税反対の政党への投票行動にはならなかった。ただし、最低限の目標であった民主党の現有54議席は阻止。阻止どころか、8議席も減らせて大敗させ、与党の参院過半数割れを実現し、衆参ねじれの事態まで現出させた。……
 ……(民主党が:引用者注)衆院に戻して3分の2で通そうとすれば321の数が必要だが、社民党を足しても319に止まる。
 −−5年前に戻った選挙結果 − 国民は小泉改革路線の復活を選択した、FC2版ブログ『世に倦む日日』2010年7月12日

 今回の選挙結果に関して、次の2点が言えると思えます。
 第1に、有権者の「自殺攻撃」があった。第2に、小泉の亡霊が復活したことです。
 第1を説明すると、菅首相の消費税政策に反対するあまり、こども手当の上乗せ、高校授業料無料化、高速道路の無料化、年金制度一元化、後期高齢者医療制度の廃止、農家への個別保障、等様々な政策を打ち出し成果をあげてきた民主党有権者が見放し、これらの政策を「ばらまき」と言ってはばからない自民党みんなの党の躍進をもたらしたことです。これによって、上の諸政策はすべて参院によって阻止される形勢となり、こども手当と、高校授業利用無料化を除くその他の政策は、参院で阻止されることとなりました。これらを実現するためには、新しい法案を出す必要があり、それが参院で否決されれば法案は成立しません。
 自民、民主の敗北をもって消費税論議にNOをつきつけるという戦略も、おなじ10%を公約として掲げる自民党の躍進によって無効化されたと言えると思います。むしろ、次の選挙(衆院選挙)まで上げないとした菅首相の考えまでもが、選挙を待たずに上げること主張した自民党の躍進によって否定され、選挙前の消費税値上げが肯定される文脈となります。
 そもそも、1人区で民主党菅の消費税10%が否定された時、一番喜ぶのは最大野党の自民党であり、どちらも負けるなんてことはありえないわけです。それが自民党の1人区での勝利、躍進につながった。これは、至極当然の結果です。
 こうして、今回の参院議員選挙では、絶望的な結果がもたらされました。
 第2の論点の説明をすると、みんなの党の渡辺党首が選挙後のインタビューで有頂天になりながら話していたように、彼の政策は小泉=竹中流新自由主義にほかなりません。そして、この新自由主義が、同じ新自由主義でありながら、同時に小泉純一郎流のデマゴーグ・ペテンでしかないことは、渡辺の場合も小泉と同様です。
 東京の第5位候補者で勝利したタリーズ・コーヒーのまわし者と共産党の小池あきらとの接戦を見ていて感じたのは、やはり、有権者は候補者の見かけで選ぶということ、そして低い時給で働かされているにもかかわらず、彼ら若年労働者が夢見るのは、他人を蹴落として成功することでしかないことが明確になった点だと思います。
 僕ら高度成長期に青年時代を過ごした者は、どこか心の底で日本の可能性を信じていて、みんなが平等に幸福になる道があることを確信しているところがあります。これは高度成長期の自民党経世会流の発想なのだと思います。
 しかし、今の若年層は、そんな夢は見ない。他人を蹴落とすことによってしか自分は幸福になれないという確信がある。
 そんな彼らの夢は、タリーズ・コーヒーのイケメンであり、堀江であり、小泉純一郎である。夢が破れることなど、決してリアルには感じられない。むしろ、自分たちが他の世代よりもわりを食っているということのほうが、よりリアルに感じられるのだと思います。
 でもこれは、ファシストの夢の一種です。なぜそう言うかというと、若年層の貧困こそ、新自由主義的政策がもたらしていることに対する洞察がないからです。
 有権者の総体は、この10年の旧自公政権の経験で、それに気づいた。だから昨年の政権交代が起こったわけです。しかし、いまだそれに夢をもつ菅一派がいるように、自民党にも小泉の夢もう一度という清和会があり、こうした連中は、庶民の苦しみを知らないだけに、いまだ夢を振りまくことに熱心です。そして、今回の選挙でも、みんなの党の躍進をもたらすことに成功しました。
 しかしそれは、しょせんデマゴーグであるがゆえに、結局、成果をもたらさず、昨年の小泉=竹中路線の敗北に象徴されるように、いずれ破綻することが避けられないものです。TV局・新聞社は、既得権益を守ることが最優先されるから、夢を振りまくことによって、国民をだまし続けるとしてもです。それは、他の先進国の歴史を見れば明らかです。


 こうした、今回の選挙結果による政治の破滅的結末は、日本の政治の停滞をもたらさずにはおかないものです。
 問題は、SF小説=アイザック・アシモフ著『ファンデーション』(ハヤカワSF文庫)に登場する歴史心理学(サイコヒストリー:過去の歴史の動向を分析し、未来を予測する学問。もちろんSFですが)者ハリ・セルダンの言にあるように、「そうした停滞期間をいかにして短縮するか」にあります。停滞期間を短縮できればできるほど、過渡期における日本国民の苦しみを減らすことができるからです。


 菅首相を代表とする民主党には、2つの選択肢しか残されていいません。
 1つは、最初に引用した『世に倦む日日』の著者の言うように、「軸足を新自由主義派にずらし、みんなの党自民党清和会と協力する道」です。それは2009年衆議院選挙マニュフェストからの、ますますの後退をもたらします。これは、今回の選挙結果には忠実であるものの、「小泉=竹中路線の否定」という、昨年の民主党の存在意義を真っ向から否定する路線です。
 それでも民主党は生き延びることはできるかもしれません。でも、いずれそんな政党は存在する意味がなくなる。かつて小泉=竹中路線が崩壊したように、この路線もいずれ崩壊せざるをえない。だって、基本ペテンであり、国民の大多数に苦しみを強いるものだからです。
 そこで、僕は、別の道を考えてみました。
 もし民主党が今回の選挙結果を反省し、「強い経済、強い福祉、強い財政」といった、国民に全く共感の得られない政策を捨て、「国民の生活が第一」に戻ろうとするのなら、以下の道があるように思えます。
 民主党が「国民の生活が第一」の政策に戻るなら、公明党と組むことで事態を打開できる可能性があります。以下、衆議院ホームページからの引用です。

会派名及び会派別所属議員数(衆議院

平成22年6月17日現在
会派名           会派略称 所属議員数
民主党・無所属クラブ   民主   307
自由民主党無所属の会  自民    116
公明党          公明     21
日本共産党        共産     9
社会民主党市民連合   社民    7
みんなの党        みんな   5
国民新党新党日本    国民    4
たちあがれ日本      日本    3
国益と国民の生活を守る会 国守    2
無所属           無     4
欠員                  2
計                  480

 つまり、選挙後の山口公明党委員長の発言にあったとおり、「税収よりのもその使い道の(=福祉支出)議論を優先すべき」との言にそのまま従って、むだな歳出の削減を行いながら、福祉支出の増額に道を開く。つまり、公明党と連立する道です。国民新党を除いても、307+21=328が可能で、参議院の2/3を上回ったところで、一気に新自由主義者と対決することが可能となります。この路線を取るのです。
 政権維持の瀬戸際に立った民主党には、新自由主義とともに消滅するのなら、社会福祉重視に、もう一度、舵を切り、公明党と共に生きる道を選ぶことによって党勢の回復を目指す道があるということです。
 公明党には、基本的に、与党内を目指すインセンティブがあります。外国人に地方参政権を付与するという民主党と共通する政策もあります。
 そして、後期高齢者医療制度廃止、児童手当増額、高校授業料無料化等の、基本的に共通する福祉政策もあります。高速道路の無料化や年金制度一元化、健康保険制度一元化、歳入庁の創設、クロス・オーナーシップ規制、電波帯域のオークション制度、検察の取調過程の可視化などの諸政策についても、公明党は白紙なのだから、受け入れる余地があります。
 新自由主義に塾足を移すことをA案とすれば、こうした公明党と組む道をB案と名付けることができます。
 A案は菅=枝野・現民主党執行部が志向するものといえます。B案は小沢が志向するものです。
 問題は、今回の敗北を民主党議員がどれだけ深刻に考え、反省するかによって決まるといえそうです。存在理由をなくし消滅する道を選ぶのか、それとも原点に戻って生き返るのか、その選択が、A案、B案の二者択一になる。
 他の選択肢は、あまり考えつきません。
 でも、A’案として、検察庁に操られた検察審議会によって小沢が起訴され、法廷で政治生命を断たれる可能性もあります(有罪無罪は関係ない。起訴されること=政治生命の消滅なのです)。なにしろ、検察審査会は、ちょっと怪しいというだけで、文字通り証拠抜きで起訴できる制度なのですから。そして、検察審査会の結論を左右するのは、検察の意向を受けた弁護士です。そうなったら、B案は求心力をなくし、A案しか残らないことになります。
 もちろんA案はペテンですから、官僚の利益は守られます。
 みんなの党の公認で比例区で当選した上野宏史が八ツ場ダム推進派であることは、その証拠といえます。八ツ場ダムの建設会社は194人の国土交通省OBがいるのですから、みんなの党のとなえる「天下り禁止」はデマでしかない。ですから、いずれ、近い将来、新自由主義者は敗北せざるをえない。ここで言う新自由主義者とは、A案を取った民主党みんなの党自民党のことです。
 結論として、日本に住む住民の未来は、A案・B案のどっちが先に勝つかのチキン・ゲームに賭かっているというわけです。
 少なくとも、こうした分析は、今後、今年秋の予算関連法案提出時期までの政治を見るうえで参考になると思います。
 PS 今『日刊ゲンダイ』を見たら、公明と連立すれば参院でも過半数が取れるから、もっとB案のハードルは低くなります。
 PS2 本日発行の『日刊ゲンダイ』によると、検察審査会が第2回目の結論を出すのは今月中の公算と書かれていました。2回目も起訴相当の結論が出れば裁判になります。この時点で小沢の政治生命は終わる。
 そして、もし起訴不適当の結論が出れば、一気にB案が現実味を帯びます。マスコミは既得権益ゆえに小沢叩きを再開するでしょう。しかし、それを乗り切ればB案の可能性が高くなるように思えます。
 シナリオAにしろシナリオBにしろ、最後は結局、同じ結末になるのですが、小沢起訴の場合は、停滞の最長期化という最悪のシナリオになることだけは事実だと思います。