『坂の上の雲』『迷宮の女』『ブロークン・フラワーズ』
- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1999/01/10
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「人は生計の道を講ずることにまず思案すべきである。一家を養い得てはじめて一郷と国家のためにつくす」という思想は終生かわらなかった。−−95頁・司馬遼太郎『坂の上の雲(一)』(文春文庫版)
好古は、「男子は生涯一事をなせば足る」と、平素自分にいいきかせていた。−−141頁・同前
NHKのドラマで『坂の上の雲』第一部を見て気になったセリフがあったので、本を買って読みました。それが上のセリフです。いま全8冊のうち3冊まで読み終わりました。
かたや、これまで放送された部分で一番気に入っているシーンは、正岡子規の妹が秋山好古の弟を松山の海岸まで見送りに来て、「おなごでも一身独立できるだろうか?」と聞いた時、好古の弟が「わしは、できると思うぞ」と答える場面でした。でも、これは小説には出てこないドラマオリジナルでした。さもありなんといった感じです。
司馬は、僕にとっては、いま一つ好きになれない作家で、これは作家がどうこうというより、この作家に付きまとうフォロワー達の、複雑なものを単純化して理解しようとする傾向を好きになれないということなのだと思います。つまり、日露戦争を帝国主義の時代にあって日本が生き残る為に避けられない戦いであったと言い切り、それで終わりにしてしまう姿勢のことです。
それは定義としては正しいのかもしれない。しかし、だからと言って、その犠牲にされた日本兵、ロシア兵(中国兵も)の苦しみは、少しも軽減されないし、その部分を見る視点も同じくらい重要であるという点です。もとより、司馬には、帝国主義戦争に関する労働者国際主義的発想は全くない。
事実に関する収集は、名前の通っている小説家だけあって、よくできているのですが、それらを取り除けば何か評価され過ぎといった気がします。
同じNHKの大河ドラマ『龍馬伝』でも、一番気に入っているシーンは、広末涼子演じる下士の娘が、龍馬にふられた後、岩崎弥太郎の廃墟のようなボロ小屋の塾で、にこにこ笑いながら真面目に座って勉強する姿でした。
結局、『坂の上の雲』にしても『龍馬伝』にしても、男子であるというだけで東京や江戸に上って勉強したり修業したりすることがお膳立てされるのに対し、女子の自立の道ははるかに厳しかったということが強く印象付けられたのでした。そうした環境に置かれた彼女らに比べれば、財閥をつくったり、日露戦争に勝利したり、薩長同盟を結んだりすることは、遥かにたいしたことではないという気がしました。
司馬にはこうした視線もない。つまり、昔はそうした時代だったから、仕方ないじゃないかという姿勢が、僕にはちょっとなじめないところです。
今日はCATVのシネフィルイマジカで『迷宮の女』(2003仏)と『ブロークン・フラワーズ』(2005米)を見ました。
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『迷宮の女』はミッキー・ロークの『エンゼル・ハート』やブルース・ウィルスの『シックス・センス』同様、最後に大どんでん返しがある、よくできたサイコミステリーでした。主演の女の子も魅力的です。
『ブロークン・フラワーズ』は最後のシーンを見るまで、ジムジャームッシュ監督作品の中で一番いいんじゃないかと思っていたのですが、あの終わり方はちょっとかわいそうだと思いました。まあ、プレイボーイには当然の終わり方なわけで、あれでいいのかもしれません。ブロークン・フラワーズですしね。ほろ苦い終わり方でした。
全体に、あいかわらず映像のつなぎ方、せりふ回しといい、高水準のいい作品です。