鳩山、小沢の辞任と菅内閣の発足

 1週間ほど旅行して帰ったら、鳩山民主党党首と小沢幹事長が辞任した直後だったので非常に驚いた。いくら支持率が低下していたとはいえ、これはありえない判断だと思った。なぜならこの辞任で喜ぶのは、検察を先頭とした中央政府の高級官僚、官僚と共通する既得権益を守ろうとした朝日、毎日、読売、日経、東京、サンケイの大手新聞社、それら新聞社と株式支配でつながっているTV局である日本テレビ、TBS、フジテレビ、TV朝日、TV東京、東京MX等、株式支配でつながっていなくても、官僚組織として総務省とつるんでいるNHKだけであると思うからだ。
 自民党が与党だった時代、少なくとも読売新聞やサンケイ新聞は、自民党がどんな悪政をしても自民党を支持していた。同様に、フジテレビの木村太郎といった右翼コメンテイターたちも同様だった。しかし、いま、すべての新聞、TV局に、民主党支持の論調は1つもない。
 当たり前だ。民主党を支持する人間は、すべてコメンティターとして採用されないからだ。こうしたテレビ、新聞は、正義として、民主党、特に「決断できない鳩山首相」や「政治と金の疑惑が付きまとう」小沢民主党幹事長を批判しているようにみせかけている。
 しかしそれは、正義のためではない。彼らの会社としての「利益」、つまり既得権益の確保のためにすぎないのだ。そして、自分たちに逆らえば、政権なんて赤子の手をひねるように簡単につぶせるのだというデモンストレーションをするためであった。
 朝、毎、読、日経、東京、サンケイといえば、ほとんどすべての日本の新聞である。同時に、NHK、日テレ、TBS、フジ、朝日、TV東京、東京MXといえば、系列も含めて、ほとんど全ての日本のテレビ局である。系列ラジオ局も同様だ。
 こいつらが、TV局と新聞社との株式持ち合いの禁止という、クロスオーナーシップ規制や、TV局の莫大な独占利益を公正な基準に減らすための、電波帯域のオークション制といった民主党の政策をぶっ潰すために行ったのが、最近の一連のネガティブキャンペーンであった。ネガティブもネガティブ、異なった意見を言う媒体が『日刊ゲンダイ』1紙だけだったのだから、お笑いだ。これまで野党寄りだった『週刊ポスト』や『週刊現代』までもが、小沢、鳩山批判を繰り返した。月刊誌『世界』はお高くとまって、この状態がいかに民主主義にとって危機的であるか、メディアによるファシズムであるかについて、語ることができなかった。
 なぜ危機的なのかは、一目瞭然だろう。クロスオーナーシップ規制や電波オークションの民主党の政策について、一言でも触れるコメンテイターは、すべて新聞TVから排除されたのだからだ。おかげで、こんな政策があること自体、選挙民は知らないし、それゆえ、なぜTV新聞が狂ったように民主党を批判するのか、読者、視聴者は全く気がつかない。だから検察の異常な秘書逮捕で始まり、証拠不十分で不起訴処分に終わった小沢の「政治と金」問題でも、マスコミが検察批判を行わないために、何か小沢が悪いことをしているかのように印象付けることに成功したのである。そして、その結果としての鳩山内閣の支持率低下である。これをマッチポンプ(自分で火をつけて、自分で消すこと)と呼ばずして何と呼べばいのか。
 もちろん検察は、天下りを繰り返す高級官僚にとって最大の敵である小沢をつぶすことが目的だから、マスコミが批判しない限りあらゆる非合法的な手段を使う。そしてそれは検察だけでなく、日本の高級官僚という全体の意思だからだ。小沢が危険なのは、総務省とつるんで既得権益を確保したいTV局、新聞社も同様なので、ここでマスコミ=官僚=自民党といった共同戦線が成立した。自民党はほとんど死に体だし、官僚は1回目の事業仕分で国民のことを全く考えていないことが明らかとなった。だから、それでもTVや新聞を素朴に信じる国民が大多数であるがために、マスコミが総動員されたのが、この数カ月の実態だったのだ。こんな国を、はたして民主主義国と呼べるだろうか?
 国民がマスコミに洗脳されれば、民主党内の反小沢、反鳩山の連中は、これをチャンスと政権内の主導権獲得に動き出す。マスコミがそうであるように、ここにも国民にとっての利益、正義は存在しないだろう。
 鳩山が、アメリカの好意に甘えたのは、自失点の一部といえる。外交は「武器を使わない戦争」なのだ。たとえそれが言葉にすれば異常なことだろうとも、アメリカは「奴隷として金を差し出す日本」が継続するのなら、それに越したことはない。それが本音である。だから鳩山は、よりしたたかにアメリカとの交渉を行わなければならなかった。しかし、その交渉を担う外務省には、以前の自民党政権アメリカに隷属することしか政策として選択肢をもたない官僚しかいないのだから、彼らに丸投げした時点で、この敗北は決定づけられていたのである。それは、岡田外務大臣にしても同様である。
 鳩山は、在日米軍基地なき日米安保の実現を政策として堅持すべきであった。そして、その実現のためには、日米安保の廃棄すら政治的手段として使うべきだったと思う。そこまで言わなければアメリカを動かすことはできないし、普天間基地の問題すら解決できない。アメリカがダメなら、日米安保を破棄して、EUと組めばいいのだ。片務的な核防衛だけをEUに要請すればいい。彼らは受けるだろう。なぜなら、彼らが最も恐れるのは、日本の核武装化による他の地域への核拡散なのだから。もちろんこれを機に、経済的つながりを強化することは、アメリカと組むよりも利益が大きいだろう。
 鳩山は、CIA等によってスキャンダルを握られていたのかもしれない。アメリカは同盟国に対してそうした手段を取らないと考える方が、よほどの平和ボケだろう。ネット右翼はそう考えるのかもしれないが。それともネット右翼は、アメリカの後ろ盾以外考えられないほど頭が固い、洗脳された連中なのかもしれない。
 ともかく、時代が動こうとしているのに自ら、政策という手足を縛るのは愚の骨頂である。それが先に書いたような事情で不可能なら、その不可能を変えるべく行動すべきなのだ。
 僕は、TVでニュースキャスターやコメンテイターが偉そうに「政治と金」問題を語るたびに、胸糞悪くなっていた。新聞も同様だ。なぜなら、それは、正義のためではなく自分のほんの少しの給料を確保をするために、視聴者をだますこともいとわないテレビマンや新聞記者の、薄汚れた姿だからだ。「何を偉そうに!」というのが、僕の正直な感想だ。そして、それは毎回のことだったのだ。
 マスコミ対策は近代政党の最大のポイントである。それが鳩山政権は弱かったのかもしれない。『パックインジャーナル』の朝日新聞シニアコメンティターは、マスコミが鳩山=小沢政権をつぶしたという構造を基本的に肯定しながら、マスコミも変わりつつあると語っていた。そう、同じままではいられないはずなのだ。その為には民主党参院選挙勝利というもうひと押しが必要だ。
 ともかく、菅はともかく、枝野とかいうチンピラに何ができるのか不安だが、もう動きだしてしまった以上、それを見守るしかないだろう。
 枝野幹事長を見る上でポイントは2つほどあって、1つは陳情の幹事長室集中制度であり、もう1つは参院議員選挙での複数区への民主党複数候補者擁立方針である。この小沢前幹事長の政策を枝野も踏襲できるかが、枝野の政治的質を見極めるリトマス試験紙となる。前者については肯定的なようだ。後者については、この方針を維持しつつ、共倒れになる選挙区があれば考えるとの方針のようだ。「共倒れ」と「候補者が楽に戦いたい」とは極めて区別がつきにくいものである。だから小沢は複数候補者の擁立を決めたのであって、現状で複数をやめる理由はないだろう。注目ポイントだ。
 あとは回復した内閣支持率をどう維持していくか、菅の政治力が試される局面となる。政権を維持する為に、国民のために改革をする民主党の姿勢を変えないことが可能なのか、祈るのみである。