権力の番犬たち

 総選挙まであと19日、僕の読んでいる朝日新聞でも、自民、民主両党のマニュフェスト比較が盛んに報道されています。でも、こんな比較は全く意味がないと思われます。その意味で、今日の『日刊ゲンダイ』と僕の主張は全く同じものです。
 なぜなら自民党のマニュフェストを取り上げる前に、自民党が4年前に約束したことのどれだけを実現したのかを報道すべきだと思うからです。首相は4人変わりました。でも、マニュフェストは党の約束ですから自民・公明の約束がどれだけ守られたか、がまず問われなければならない。それを検討しなければ、そもそも今回の自民・公明側のマニュフェストがどれだけ信じられるのかが、全く判断できません。
 そして、それを抜きにして、マニュフェストの字面だけを比べても、全く意味がないといえます。かたや民主党は、野党なんだから、過去のマニュフェストは実現できるわけないので、検討する必要はありません。
 有権者はその点をよく考えて新聞を読むべきだと思います。いや、麻生が「実績を見てください」と主張するように、僕らは自公連立政権の過去4年間の実績をよく見ているのかもしれません。
 宙に浮いた年金記録をすべて精査しますと約束して、結局、できませんでしたと答えたり、75歳以上のお年寄りを囲い込んで、専門医の検査を受けることを阻止すべく、かかりつけ医師制度を作ったり、挙句の果てに、延命治療を断念する念書を取った医師に、診療報酬を出したりする後期高齢者医療制度を創設したりと、全くよくもここまでやったもんだといった感じです。
 それでも、世論調査で22%の麻生支持者がいるというのは、そのうち5%は創価学会の人で、残りは、国民の税金で天下ったり道路を作ってもらったりと利益を得ている人たちなのでしょう。ほかにも、そうした構造に気付かない人も含まれるのかもしれません。
 話を朝日新聞に戻すと、もう公正中立という看板はイイカゲンにやめて、「政府寄り」と立場を明確にすべき時のような気がします。まともに公正中立だと言えるのは、東京新聞くらいなのではないかとも思います。
 1年間続いた終戦60年のNHKインタビューで、毎日新聞の記者が日記に書いていました。「終戦以来、新聞各社は、戦前の大本営発表をそのまま流していた罪を全く自己批判せず、これからは民主主義の時代だとばかりに、まだ国民を指導する立場に安住できると思っている。自己批判すらできない彼らに、その資格があるのか!?」この新聞各社には朝日新聞も含まれます。
 僕は丸山政治学を学生時代にかじっていますが、彼の研究の基本テーマは戦前の天皇ファシズムでした。その思いは、あの時代を二度と繰り返してはならないというものでした。そうした立場は戦後教育の中で育った僕にも共通しています。そしてそれが、政治の現在を見る僕の基本的視点でもあります。
 もし、今度の選挙で自民・公明連立政府が1議席でも多く取るのなら、それはすなわち、麻生首相の信任であり、長崎の平和祝典で「傷跡」を「ショウセキ」と読んだ(正解は「キズアト」)、無学無知の首相を信任することになります。タレントやスポーツ選手ならまだしも、政治家としてはありえない間違いです。さすがに鳩山はそんな読み間違いはしないだろうというところにも、ダブルスコアで支持される理由があるように思えます。
 それよりもなによりも、これまで行われてきた、検察を政治的に利用したという自公政権の暴挙を国民が許すか許さないかという重大な局面に、いまわれわれが立たされているということが、僕には重要に思われます。これは小沢秘書逮捕や、検察審査会が二階を起訴相当であると意見した事態(結局、まだ起訴されていない)だけでなく、立川テント村などへの言論弾圧もさしています(右翼活動家への弾圧も含む)。
 こうした事態に関連する、民主党の掲げる取り調べ過程の可視化も、裁判員時代における司法制度に客観性をもたらすため以外の何物でもありません。逆にこうした政策が実現できないなら、ある検事が民主党案を批判するかたちで朝日新聞で書いていた「自供の重要性」も、「じゃ、拷問しても自供を導けばいいの? そんな自供は信ぴょう性があるの?」と逆に質問されてしまうような、低レベルな議論です。民主党案は司法の公平をもたらすためのものであって、自民に有利とか民主に有利といった低レベルな議論ではありません。
 かたや、自公連立政権が行ってきたのは、野党転落を是が非でも阻止するために、なんでもありといった形での、まるで彼らが敵と名指す、北朝鮮なみの全体主義的政策と同根のものと言わざるをえません。「敵にしているうちに自らがそれに似てしまう」ということは、案外よくあることです。
 こうした事例が指し示すように、岐路に立った日本が抱える問題は実にたくさんありますが、なかでも今回の選挙は、日本がその国に住む人々にとって「福祉と民主主義」を国是とした国になれるのか否かがかかっているように僕には思えます。EU統合の旗印は、やはり「福祉と民主主義」でした。その意味で、日本がやっと先進国レベルに入れるか否かが問われている選挙だともいえます。
 もちろんEUがすべてにおいて理想的だなどとは言いませんが、それですらない現状を僕らは気づかなければならないと思います。
 自公連立政権が勝利すれば、彼らのマニュフェストは消えてなくなるでしょう。だって、これまでそうしてきたにもかかわらず、自公連立政権は支持されてきたし、今回も支持されたわけですから! そして、もし民主党を中心とした野党連立政権ができるなら、彼らは死に物狂いでマニュフェスト実現に努力するはずです。なぜなら、それが成果を上げなければ、彼らは再び野党に戻るのですから。
 こうして考えるのならば、どの党に投票すべきかは、火を見るよりも明らかだと思います。