「テロに屈するな」論理の陥穽

 今朝の朝日新聞朝刊に、同社コラムニストの船橋洋一氏が、個人的にはイラク戦争反対・自衛隊撤退派だが、と断ってから、「テロに屈することは、国家としての体をなくすこと」と書いていました。でも、この理屈って、よく考えると非常に矛盾しています。だって、「テロリスト」(本当は反政府ゲリラだけれども)が人質を取って自衛隊の撤退を要求している間は、自衛隊は絶対に撤退できないことになる。仮に人質が殺されたり解放されたりしたら、初めて自衛隊撤退の検討ができることになる。けれども、そのときには別の人質が発生しているかもしれません(このコラムと同じ朝日新聞朝刊には、新たに2人の日本人がイラクで誘拐されたと報道されていました)。そんなこんなで、運よくすべての人質事件が片付いた暁に、初めて自衛隊の撤退に着手できることになるわけですが、そのときですら、「そんなにすぐに撤退したら、結果的に、ゲリラの脅しに屈したことになるから、もうしばらく待て」、とか言って、そうしているうちにまた人質が誘拐されたりして撤退できなくなる。そんなことの繰り返しで、結局この「テロに屈するな」理論では、いつまでたっても自衛隊は撤退できなくなるわけです。
 無論、小泉首相は、米軍が現在休戦協定を交しているファルージャでの戦闘すら、反占領軍と占領軍の戦いではなく、アメリカ軍による犯罪者逮捕行動(テロリスト対策作戦)と位置付けているはずですから、自衛隊が仮に攻撃されても、テロリストの攻撃であって、憲法の禁じる戦争行為ではない、と言い切るはずです。もしかしたら、自衛行為であって、憲法の禁止する戦争ではないと言うかもしれません。そして、再び「テロに屈するな!」と言うはずです。
 それでは、一体全体、何人日本人が死んだら、自衛隊は撤退できるのでしょうか? この理屈では、もう絶対に撤退できないことになります。たぶん現在派遣されている自衛隊員と、これから行く自衛隊員が全滅して、イラクに行きたい自衛隊員がいなくなるまで、この事態は続くということなのでしょう。そのとき小泉は徴兵制に踏み切るだろうけど、それをその時の日本人が徴兵制を支持するとは、いくらなんでも思えないから、いずれにしてもこの理論は破綻していることが歴史的に証明されることになると思います。
 あと、肉親である人質を心配する家族に、脅迫めいたものが送られているそうですが、それを送っている人に限って、絶対に、自衛隊の代わりに「人道援助」をするなんて言わないことだけは受けあえるでしょう。実際には人道援助ではないのですけれども。米軍の兵士を空輸していることは、福田官房長官ですら自ら認めていることです。それでも、脅迫状の主はイラクには行かないでしょう。そんな勇気があったら、弱者いじめなんかしてないで、さっさとイラク占領なりに志願するでしょうから。