攻めとしての小泉

 前回、前々回の日記に書かなかったことを、一つだけ書きたいと思います。
 それは、事態に動揺し政権を守ることに汲々する小泉ではなく、人質事件などはすべて織り込み済みとしての小泉のことです。


 小泉の頭の中には、戦闘の予想される地域への自衛隊の派遣、結果発生する自衛隊員の死傷、もしくは日本人民間人の殺害、誘拐を経て、攻撃に対して報復できる自衛隊、誘拐された日本人民間人の救出ができる自衛隊の提案、国会議員多数派による「日本人に関する防衛行為としての戦闘」の支持、憲法9条の平和主義の改悪、憲法での国防の義務化、徴兵制に逆らう人間の投獄というスケジュールがすでにあった。
 理屈としては「これまで平和憲法を守ってきて、海外にいる邦人を助けられただろうか? 今こそ自分のことを自分で守れる自衛隊を作るべきである」って感じでしょうか?
 それによって現在のアメリカ軍のように海外で紛争を引き起こし、日本人がバタバタ殺されてもOKである。なぜなら、どんな事態になっても、小泉自身やその仲間は絶対に死なないのだから。そして、その戦争で利益を上げた軍事産業からのリベートは濡れ手に粟という感じになるのですから。
 国民が支持する限り、この政策は実現可能です。憲法改悪抜きでも、ある程度可能かもしれません。だって、これって、日本国民に対する「防衛行為」なのですから。 


 人質がいまだゲリラの元にあるにもかかわらず、「さあ殺せ」といった風に自衛隊派遣の正当性を主張した川口外務大臣の中東へのVTR放送(これはゲリラの神経を逆なでする行為でした)、「海外邦人救出任務を自衛隊に可能とせよ」という安部自民党幹事長の発言(上に同じ)、家族に会おうともしない小泉総理。ついでに言えば、自分達の非を絶対に認めない福田官房長官の記者会見。これらは、すべて、上に書いたシナリオどおりの行動といえるのではないかと思います。
 だから、自衛隊の即時撤退による人質の無事生還を祈る僕らとはまったく逆の立場から、彼らも、やはり、現在を正念場と考えている節があるように思われます。
 むしろ、人質なんか死んでくれたほうがいいとも思っているのかもしれません。そうすれば、「残酷な反政府側イラク人」に対する怒りを、イラクにおける自衛隊の任務強化、戦闘への参加と急進化させられるからです。
 小泉は自衛隊派遣の当初からそれを目論んでいたところがあるように思えます。なぜなら、この路線は、彼の親分(なぜ師ではなく親分というかというと、彼らの行動原理はまるでヤクザだから)である福田元総理が目指して、実現できなかったものでもあるからです。


 アメリカのファルージャ攻撃で死んだイラク側600人のうち、半数は女性と子供だったことなどは、お構いなしでしょう。大量破壊兵器があると嘘をついて、国連と国際法を無視して戦争を開始したことも関係ない。本当に悪いのは、こうした戦闘地域に援助と偽って自衛隊を送り込んだことだったことも関係ない。だって、派兵を先の選挙で国民が支持したのですから。ついでに言うと、劣化ウラン弾で汚染された米兵が発見されたのも関係ないし、自衛隊員も放射能汚染されていることも関係ない。彼らは、小泉の目から見た正義のために戦っているのですから。
 あれほど「陸上自衛隊の派遣は慎重に」と発言していた公明党は、今、黙ったきりです。派遣に反対した民主党の菅は、「テロに屈するな、でもこの事件とは別に、一部の自衛隊を撤退させるべき」などと、何をとち狂ったのか訳のわからない発言を繰り返している。
 公明党にすれば選挙で勝てればOKだし、学会員の動員は次回の選挙もゆるぎないはずだから問題ないのでしょう。菅は何を考えているかやっぱわかりません。小沢に気を使っているのかな? というか、根っからこいつは腐っているのかもしれません。菅の、敵に塩を送るこうした行動は、初めてじゃなかったようですから。事件直後の鳩山と羽田の発言は「他に方法がないのなら即時撤退すべき」だったんですよ。これに比べたら、どんなに菅の発言が腐り切っているかわかるというものです。
 もうひとつ、自分の家族を心配する人質家族への嫌がらせの手紙は、人間として恥ずべき行動です。なぜなら、その嫌がらせをした人の親や子ども、兄弟が同じ目にあったら、彼らは自己責任と言って、黙れるのかを考えればわかります。かりに、その人たちが、黙れるとしても、それを他人に強要しないでほしい。それが倫理というものだと思います。まあ、そうした嫌がらせはヘイト系と言ってしまえばそれまでなのですが、ニュースで「ご迷惑をおかけしました」と謝る家族を見て、非常につらくなりました。家族にすれば、謝って、肉親の生還の可能性が高くなるのなら、いくらでも謝るだろうけど、僕らがしなければならないのは、彼らへの励ましだと思います。
 ま、嫌がらせをするような人は、絶対に、自分の身の危険を冒して、困っている人たちを救いにボランティアなんかしにいかないでしょうけれど。
 いくつかの海外政府は、戦闘の激化を受けて、撤退を検討し始めています。日本人と小泉はいつまで、夢を見続けるのでしょうか?