滝田洋二郎監督『壬生義士伝』

 で、まず滝田洋二郎壬生義士伝』。滝田監督といえば、今アマゾンでDVDをチェックしてみたら、『真昼の切り裂き魔』以外は作品を全部見ていることに気づきました。見たなかで一番好きな映画は『コミック雑誌なんかいらない』だけれど、『壬生義士伝』はその次に好きな映画になりました。
 『陰明師』で描かれたきらびやかな色彩から一変して渋い色合いの映画になったのは武士というものを描こうとする監督の意志を感じました。そして、 SFXを使った、切り落とされた首が落ちるシーンなど、特撮を目立たせるのではなく、本当に首を切ったように見せるところなど、映画表現の進化のあとを見せつけられました。
 この映画には2点ほど印象に残ったシーンがあって、1つは、武士同士の戦闘が徹頭徹尾白兵戦になるということでした。お互いの剣先が届く範囲内で戦う武士の戦いは一瞬の技の冴えで生死が決まるすさまじいものだと痛感しました。TVドラマでよくある様式化された切っても血が出ない殺陣と違って、この映画では非常にリアルにそのあたりが描かれていて、非常に勉強になりました。
 そして、もう1点は、中井貴一演じる主人公が、「一天万丈の天皇様に弓引くつもりはござらねども、拙者の義のために戦はせねばなりませぬ」と叫んで維新軍に切り込むシーンでした。これは文句なくかっこいい。最近見た『ロード・オブ・ザ・リング王の帰還』にも、アラゴルンが絶望的な戦いに挑む味方の軍に、「いずれ友が友を裏切る時代が来るかもしれない。しかし、今日はその日ではない!」と演説し、鼓舞するシーンがあったのですが、それと並ぶ名台詞だと思いました。
 浅田次郎のお涙頂戴のシーンは、『ぽっぽや』もそうなのだけど、全くいただけないことは付け加えておきます。「大人はもっとしっかりしろ!」と言いたい。「自分は社会のために一生懸命働いた。家族には、一緒に居られなくてすいません」みたいな、こういう自己正当化は唾棄すべきものと思います。