平和主義強化法の提案

 以下の文章は、自衛隊イラク派兵反対の立場から書かれています。賛成の方が読まれると不愉快になる可能性があるので、お勧めしません。


 先日古い友人が遊びに来た。東京で就職活動をしたいということで、滞在期間も訪問日時も告げずに、ある地方都市からやってきたのだ。しかし着くなり、「1ヶ月ほど泊めてくれ」と言う。1人暮らしならそれも可だが、そうじゃないので、妻と相談して、1週間だけ滞在を許可した。あまりにも失礼なので、「すぐ帰れ」と言うつもりだったが、「それも大人気ない」という妻の意見で許可したわけだ。
 その夜、件の女性と話してみると、彼女は自衛隊イラク派兵に賛成だと言う。「自分は就職活動中で、今アメリカと関係が悪化して景気が悪くなったら困る」という理由からだ。
 それを受けて、僕が、「それなら君は、自分の就職活動を有利にするために、自衛隊員の命を差し出すのか?」と聞くと、「自衛隊員は自分で希望して行ったのだから、構わないじゃないか」と答えた。
 「今回の派兵はこれまでの国際援助活動と違うだろ。それを言うのなら、なぜお前が行かないのか。自分で行くのが本当の責任の取り方じゃないか」と言うと、「嫌だ」と言う。
 結局、その夜はここで終わったのだけれど、彼女の立場は、自分のために自衛隊員が危険な目にあうのはOKだけど、自衛隊員がその結果、負傷したり死亡したりしても、それは彼女の責任ではない、というものだった。「お前が賛成したから自衛隊員がイラクに行ったんだろ!」と突っ込みを入れたかったが、彼女は昨年10月にアメリカから帰国したばかりで、先の衆院選は投票していなかったのかもしれない。
 ともあれ、(これじゃ、かりに家に泊まって就職が決まっても、決してオレには感謝しないだろう。むしろ、「文句を言いながらも結局は泊めた、お前が悪い」と開き直りかねない)などと思った。そんなわけで滞在中冷たくしていたら、一言の礼もなしに帰宅してしまった。そのあとメールでお礼を言ってきた。
 妻は、「就職活動中で余裕がないんじゃないの」と言って、それはたしかに割り引いて考えたいのだが、それでも一般的な自衛隊イラク派兵賛成派の意見って、こんなものなのだろうとも思ったわけだ。
 で、あんまり腹が立ったので、法案を作ることにした。以下がその条文である。


日本国憲法前文および9条における平和主義を強化するための法(略称:平和主義強化法)
(目的)
第1条 日本国民は第二次世界大戦での惨禍に学び、国際紛争を武力で解決しないという決意を、日本国憲法第9条第1項において表明した。同時に、この大戦が大日本帝国の「防衛」のためといった口実に基づいて行われたことを真摯に反省し、国民の防衛を、軍隊によってではなく、日本国政府施政領域内の専守防衛活動に限定された任務を持つ自衛隊の防衛力、もしくは非武装によって、外交的に保持しようと決意した。
 しかし、他の主権国家の戦争行為に対する日本国政府の支持表明、および海外での、武力の行使の可能性をともなう援助活動といった、武力行使と平和的援助活動の中間領域が発生する可能性に鑑み、その状況における日本国民の権利および義務を明確にするため、この法律を定めるものである。
2 この法律は、前項の目的と同時に、第二次世界大戦時において天皇制軍事政権の非道な圧制下におかれた防衛力を担う人々の境遇を再び繰り返さないために、自衛隊員の生命と基本的人権に基づいた文化的な生活を保障し、自衛隊法に定められた本来の任務等に専念することを可能とすることを目的とする。
(他の主権国家による戦争の支持)
第2条 内閣総理大臣は他の国家による戦争行為を支持する際に、それによってこうむるすべての不利益を、日本国民および諸外国のすべての人々に対して賠償しなければならない。
2 前項の支持声明を支持する日本国民は第1項の賠償対象対象から除外する。
自衛隊による武力行使を伴う可能性のある海外援助活動)
第3条 内閣が、自衛を含めた武力行使の可能性がある海外援助活動に自衛隊、およびそれに相当する部隊を派遣する場合、その活動を実施する法案に賛成した国会議員各員の最も近い親族の1名は、男女を問わず、3ヶ月の自衛隊による訓練の後、当該派遣における最も武力行使の可能性の高い前線に配置する。
2 前項の該当者が、自衛隊の入隊年齢等を考慮して不適格である場合、次に最も近い親族がその該当者となる。
3 前項に規定する該当者が良心的入隊拒否を行う場合、法案に賛成した国会議員がその任を担う。この場合、年齢、健康状態等の入隊資格は考慮されず、無条件での入隊となる。
4 入隊は資格認定後3日以内に行われ、訓練は入隊日の翌日から起算される。
5 3項に規定された国会議員が入隊する場合、当該議員の国会議員資格はその派遣期間停止される。欠員に伴う補欠選挙公職選挙法に基づいて行なわれ、その当選者は当該議員の任務終了まで欠員国会議員の議席を占める。派遣議員の議席は派遣任務終了後復活し、代行国会議員の議席は消滅する。
(派遣人員が不足した場合)
第4条 第3条に規定する人員で、上記の武力行使を伴う可能性のある海外援助活動人員に不足する場合、派遣に賛成する国民のなかから、男女を問わず、公平な抽選による入隊を行う。入隊人員選考過程は、第2条に規定されたものに準じる。
(派遣反対国民に対する補償)
第5条 上記派遣に反対する国民に対して、上記派遣にかかるすべての費用をその租税負担割合に応じて、総額の確定後、遅延なく還付する。
2 上記の派遣によって引き起こされた派遣対象国家内外の派遣反対勢力によるテロリズム等によって被害を受けた日本国民および他国民に対して、通常の裁判で規定される損害賠償および慰謝料を内閣は補償しなければならない。これにかかる費用は、当該派遣に反対する国民に前項の規定に従って、還付される。
(派遣対象国で活動する人に対する損害賠償)
第6条 派遣対象国内で活動するすべての人が、当該派遣人員による誤射、事故等によって損害をこうむった場合、日本国内法によって、当該行為を行った派遣人員は被害者および遺族に対して損害を賠償する。裁判管轄は被害者および遺族の都合によって、他国の日本国内法と同等もしくは同等以上の補償が得られる国の裁判を選択することができる。被告の刑事裁判もこれに準じる。


日本国憲法前文および9条における平和主義を強化するための法施行規則(略称:平和主義強化法施行規則)
第1条 この法律は国会の可決と同時に発効し施行する。
第2条 この法律の施行以前に行われ、かつ施行時にも継続して行われている、この法律に規定された自衛隊等の海外派遣業務に関して、施行後直ちにその承認にかかる国会議決を、再度行い、その結果に対してこの法律は適用される。


 この法律のことを、最初に書いた女性に話したら、「こんな法律ができたら、誰もイラク派兵に賛成しなくなる」と言っていた。当たり前だ。自分だけ安全な場所にいて、他人の危険を省みない、しかもそれを強いる神経のほうが、どうかしている。
 ついでに言うと、これはイラク派兵賛成派の国会議員も賛成できる内容だと思う。だって、自分や自分の子供が安全だから、赤の他人の自衛隊員は死んでもいいなんて、選挙をひかえた国会議員は絶対に言えないだろうからだ。そして、もしこの法案を拒否するなら、彼ら国会議員は、自分やその家族さえ安全なら、自衛隊員の1人や2人が死んでも、少しも構わないと思っている証拠となるだろうからだ。